時事評論(外交知識普及会 発行)
2004/11月号掲載
地方からの発信 食卓の風景       佐賀県知事 古川 康

「好きなカレーってどんなカレー?」とある保育園で先生が子どもに尋ねた。
先生としては、から揚げの入ったカレーとかビーフカレーとかおうちで食べるカレーとか、そういう答えを期待していたのだろう。
ところが、返ってきた言葉は「ぼくは星の王子さまカレー」「わたしはハム太郎カレー」−そう、つまりレトルトカレーの名前だった。

 佐賀県(正確には佐賀市)は冷凍調理食品の購入金額が全国四位である。全国で十番目に農業従事者割合の高い農業県佐賀として意外だと思って、あるメデイアにそのことを書いた。
そうしたところ「働いている人が多いからだと思います。時間とお金を惜しんで弁当を作るとなると、冷凍食品は欠かせません。また、都会と違って、大きな企業や街がないので、社内食堂があるとか、昼休みになると外に食べに行くという習慣があまりないから弁当を持ってくる人が多いのだと思います」というメールをいただいた。
佐賀県は全国で十四番目の共働きの多い県でもあったのだった。

 「弁当が多いと聞いてなるほどと思うことがある」というメールも届いた。   
「消防訓練のとき消防職員の方に聞いたら、最近の自宅での火災はてんぷら油の過熱によるものが多いそうで、原因をお尋ねすると冷凍食品が普及しはじめてからだとのこと。生活スタイルの変化がこんなところまでと妙に感心しました」。  
僕もこないだある市の消防夏季訓練に行った時、やはりてんぷら油による火災が多いという話を聞いた。統計を見ても、平成五年から「こんろ」の出火原因の欄に、「てんぷら鍋によるもの」の数が書かれるようになっていて、「こんろ」による火災の70〜80%を占めている。そういうことだったのか。

 さっきのカレーの話には後日談がある。その話を聞いたある人が、自分にも子どもがいるので試してみようと思って、家に帰って子どもに「どんなカレーが好き?」と聞いた。
子どもの答えは「おかあさんのカレーがいい」という答え。「なんてうれしいんでしょ」と思ってたら、こどもが付け加えて曰く、「おかあさんの作ったボンカレーが一番いい」。

食卓の風景が変わりつつある。僕らはどこまで分かっているのだろうか。