わさび 4 2009掲載
対談「農業」について

行政と民という垣根を越えて、「佐賀の農業」という題のもとに佐賀県知事の古川康さんを、そよかぜ館の館長の小野さんをお迎えし、お話を伺いました。

−幼少の頃の農業に関する思い出は−

古川 僕の家は非農家で、割と街中で育ちました。佐賀では珍しい方だと思いますが、農家が親戚に少ない家庭でした。唐津から10歳の頃に佐賀市の天祐に越してきて、家の周りには田んぼが沢山あったので稲刈りが終わった後のデコボコした地面でよく野球をしていましたね。
小野  私は根っからの百姓の家に生まれ、私で6代目です。麦わらの屋根で、床は歪みかけた板で、冬は寒かったですよ(笑)
古川 そうなんですか、農業の変革期みたいのはありましたか?
小野  耕耘機が来てからガラッと変わりましたね。それ以前は牛を使ったり、手作業でだったんですが、耕耘機の導入は画期的で、作業スピードが格段に早くなりました。親父は「これで人生が、世界が変わる」と言って喜んでましたよ(笑)
古川 それだけ大変だったわけですね。農繁期になると集落の皆が集まって、いっしょになって作業して、終われば皆いっしょにご飯食べてと、特に感じるのは佐賀の農家の方々は集団のつながりが強いんですよね。
小野  そうなんです。当時はポットなんてありませんから、籾殻焼いてお茶を温めて、本当に懐かしいですね。しかし今の農家は昔ほどゆっくりしていられないんです。イノシシが増えてきて作物が食べられてしまうんで、その対策に追われています。もちろんイノシシも生活があるんでしょうが、我々にも生活はあるわけで、昔は山奥にいたものが下まで下りてきて餌を探しているというのが問題ですね。全てをとは言いませんが、ある程度数を減らしてもらわないと。ハウスの中にまで入って来ますし、一晩で食べ尽くされてしまいますからね。

−佐賀県農業の課題は−
古川 佐賀県の農業はほどほどに作ってそこそこにするというのはうまいんですが、ハウスみかんのように1番になったものは少ないんですよね。そのやり方のままだと産地化はできてもブランド化が難しいんですよ。出荷後の流通が難しいんです。いつどういう時期に何を作って、どこに出せばいいのか、要するにどういう売り方をしていけばいいのかというところが生産の努力に比べて弱かった。ここが反省点と言えるでしょうね。同じ野菜でも他県のものと佐賀のものが置かれているなら、佐賀のものを選んでもらうブランド力をつけなければならない。そのためにはお客様に対して目立つところで宣伝する必要があります。これは農家だけの問題ではないんですが、作ってそこで終わりじゃなく佐賀産のおいしいものですよっていうメッセージが届くまでずっとイメージを大事にしていくことが大切で、それは佐賀産の他の商品にも絶対にプラスになるはずです。逆に言えば、生産者や売る側の人が何がライバルで、お客様は何を基準に買って下さっているかを知らなければいけないということです。

−逆に佐賀の農業で誇れる点は−
古川 1番は佐賀の農家の方々が農業を誇っていることですね。「どうだ!」っていう気概が気持ちいい。そして善し悪しあるとは思いますが、非常にまとまりがいいんですね。JAなど系統がしっかりしています。あとはチャレンジングなところですね。チャレンジングというのは、減反に例えると、佐賀の農家は米の生産量を新潟など他県と交換して、その分大豆などを作っています。これは非常に先見性があってすばらしいと思いますね。政府から示された以上に減らしてしっかりとそこまでやっているのは他の都道府県には見当たりませんからね。
小野  佐賀県は日本で1番のハウスみかんがありますが、1番になるには産地化しなければならないし、産地化は農家がまとまっていないとできないこと。やはりそのまとまりは誇れる点ですね。何よりも農業県として、皆が農業を前向きに捉えているというのが誇れます。
古川 農林水産業のしっかりした地域は物も売れるんです。地域の基盤となる産業なんだと皆が分かっているという点も佐賀はすばらしいですね。作物がきちんと採れてお金が入ってくると企業の売り上げが落ちる時期でも購買力は落ちない。

−佐賀の農業のこれから−
古川 生産者の年齢が高くなっているというのがポイントになるんでしょうが、その要因の一つに皆が元気で80歳近くになっても仕事ができているということもあって、相対的に年齢が上がっていっているということもあると思います。若い人が入っていけるようにするにはどうするかとなると、もちろん農業そのものを魅力あるものにしていくことも大事ですが、できるだけ多くの人が農業に関わることが大切なんじゃないでしょうか。より多くの人が農業に触れることで農業理解が進むと思うんですよね。お父さんがやっているならば元気なうちは頑張ってもらって、土日だけでも農業をやって、農業の大切さとか楽しさはきちんと受け継いでいく。農業で暮らしていくのも、農作業自体も簡単なものじゃないですから、ある日突然思い立ってお米が作れる訳じゃないんです。農業に関心がある人、地野菜に関心がある人が増えることが大切だと思うんです。農業に関心をもっている人はきっと日本農業のファンなんですよ。地元の農作物に関心がある人が増えているというのは実際に農業をやってもらう以上に農業の応援団になってもらっているんじゃないかと思います。だって買ってもらわなければ作れないんですから。
小野  農業はやっぱり難しいですからね。農業を大学や専門学校で学んでも、なかなか勤まるわけじゃない。今は経営や販売方法をきちんと分かった上でないとやっていけません。60代で定年になってからでも十分間に合うんです。経営が成り立つ農家でなければなりません。そういうふうに目を向けて頂いて、そよかぜ館のような場所でいろんな生産者との交流のもとに学んで頂ければ決して大きな問題にはならないと思いますね。若い人たちが入ってきたら2年、3年とここにいる農家皆で面倒を見て育てていくというのも一つの手だと思いますね。

−読者へのメッセージ−
古川 食べ物や飲み物を口にするときに「どこのものかな?」ってパッケージをちょっと見る癖をつけてもらいたいですね。それだけで佐賀県の農業の応援団になってもらえると思います。そしてできる限り自分に近いところで作られたものを買う。ちょっとしたことですけど、心に留めておいてもらいたいですね。
小野  とにかくここに、そよかぜ館に来て、買って食べて頂けたら佐賀産のものの良さを分かって頂けると思います。ぜひ足を運んで下さい。
「道の駅」大和 そよかぜ館
TEL:0952-64-2296
http://www.soyokazekan.com/