| Wasabi january2005掲載 | |
| 知事と話す。「佐賀の意識」 | |
佐賀の街の有り様は、佐賀に生きる人々一人一人の意識の有り様に他ならない。佐賀の街をヴィヴィッドにしたければ、一人一人の意識がヴィヴィッドであればよい。 佐賀の街を豊かにしたければ、一人一人の意識が豊かであればよい。 ヴィヴィッドで豊かな街でありたいという、そこに住む人々の意識と行政側の意識の波動がつながれば、きっとそうなるだろうと思いながら、知事と話をさせて頂いた。 例えば、一〇〇年かけて人間が見失ってしまった自然の大きな力を、一〇〇 年かけて取り戻そうといった、骨太の背骨がまずドーンとあって、多様な行政上の施策がその太い幹に収斂していくような、そんな県政があってもいいのではと考えるのですが、知事の考える県政の背骨からお話し頂ければ……。 「私の考えている県政の背骨は、まず佐賀に住みたいと思っても、住めない人 がたくさんいる。その最大の理由は仕事がないということなんですね。専門学校の就職担当の先生方と話す機会があったのですが、一年生の時に、就職希望者にアンケートを取ると、8割までが県内志望だそうです。ところが実際は4 割から5割程度しか県内では働けない。大卒や高卒の場合でも事情は同じです。 だから進路指導ではまず、いかに県内就職を諦めさせるか、県外にもいいとこはいっぱいあるよと言いきかせるかだそうです。これはとても悲しい話ですよ ね。佐賀にとどまって仕事をしたいと思ってもその受け皿がない。そうした環境が整えられていないというのは、行政の責任も随分大きいのではないかと思うわけです。ですから私の基本にあるのは、そうした県民の思いにどう応えて いくのか、働ける場所をどうやっって作っていくのか、このことがまずあるわけです。 国が80兆円の予算のうち40兆円を借金でまかなっている現状では、おのず と地方に対する給付はどんどんシュリンク(縮小)していきます。今後は国の補助金に頼るのではなく、自分たちに必要なものは自分たちの手で確保していかなければいけない。自主財源をいかに確保し、拡大していくか、これが最大 のテーマです。そのためには何と言っても、できるだけたくさんの人にまず住んでもらうことが先決です。税金を払ってくれる人は、そこに住む人と、そこに事業所をかまえる法人ですから、住む人と法人を増やすしかない。自主財源 を確保することには、副次的な効果もあります。先程の一〇〇年かけて一〇〇 年前に戻すといった県独自の計画を進めていくことも可能になります。私も「佐賀城下の一〇〇年ヴィジョン」という考え方で、佐賀城周辺に残っているお濠や自然、城内のたたずまいを復元していきたいと考えています。一部には反対もありますが、大きな流れとしては、一〇〇年かけて元に戻していく、街を再 建していくという視点が必要で、佐賀市ともその方向で話し合いをしていきたいと考えています。 今までの補助金主体の事業では、どこでもやれる事業しか展開できません。 佐賀はいろんな分野でそこそこの水準にはあるんですが、これぞ佐賀!という 飛び出した部分、際立った部分がない。例えば環境、教育などをテーマに、時代のさきがけになるような事業を展開するには、どうしても自主財源を増やさ なければならないわけです。食の問題でも、今までの効率一辺倒から、自然志向へと流れは間違いなく変わりつつある。従来の農業育成の考え方も切り換えていく必要がある。ですから今年を「有機農業元年」と位置づけて、特別栽培、 有機へと予算もシフトしつつあります。ただこれは生産者だけの問題ではなく、 消費者サイドにも意識の切り替えが必要になってきます。有機栽培、無農薬ではどうしても反収が落ちる。反収が落ちればある程度高額になるのはやむを得ない。生産者から考えると、安定して買ってもらわなければそうした栽培を続けていけない。その意味でこれからの農業を支えていくのは、作り手の意識も だけど、買い手の意識ということになっていきます。そして同じ意識で生産者と消費者がつながってこそ、こうした動きがもっと大きな広がりになっていくんだろうと思います。」 現在、県の歳入、歳出が四、五〇〇億円前後。庶民感覚からすれば四、五〇〇億というのは物凄い金額で、それだけの金額が動いて、一体何にどう反映さ れているのか?といった気分になります。国債だ、県債だとどんどん借金がふくらんでいく。民間なら入る金に見合った事業を展開するのがあたり前でこんなことは考えられない。国政レベルではすでに論外ですが、まだ地方自治体な ら、トップの決断一つでこのグランドデザインで行こう! と強力に進めれば、 いくらでもやりようがあるんじゃないかと考えるんですが。 「確かに国全体をグッと変えていくのは難しいでしょうが、自治体は国とは違 います。でも、国も自治体も法律で決められていることは例えお金がなくてもやらなくちゃいけないという点では同じなんですね。例えばうちの県はお金がないから、義務教育を4年で終わりますというわけにはいかない。会社なら採算に合わなければやめりゃいいけど、自治体ではそうもいきません。我々も、もちろんいらない事業はどんどんやめていこうとしています。ただ企業も自治 体も同じなのは、企業も株主やお客様に背を向けられたら経営が成り立ちませんが、行政も住民の支持がなければ成り立ちません。住んでいる人たちが、金がないのに、一生懸命よくやってるなと評価するのか、金もないのにやるべきこともやってない。けしからん! と評価するのかによって、我々は仕事を進め ていく根拠を失ってしまうわけです。その意味で、企業はお客様が主役という視点に立たなければ成り立ちませんし、行政は住んでいる人たちが主役でなけ れば成り立ちません。」 先程の有機農業に対する消費者側の意識もそうですが、例えば、これだけ医 学が発達したと言われながら、病気が減らない、国民の医療費が増え続けてい る、一体何故なんだ? 食の問題全体に対しても、我々一人一人がもっと気付いていかなければならないことがたくさんある。自分たちの意識レベルをどんどん上げていかなければならない。その意味で正確な知識や情報をもっと積極的 に伝えていくといった行政レベルでの広報活動の強化があってもいいのではと思うんですが。 「行政が高見に立って、教えてやるといった姿勢ではダメで、人々が知らず知 らずのうちに興味や関心をもって、行動に移していくということが大切でしょ うね。その意味では私は市民活動や県民活動に期待しています。例えば食育の 問題などでも、現在市民レベルでの盛り上がりがあります。そうした盛り上が りが生協の活動に反映し、そこから例えば「県内の食品表示方法をもっときちんとしてくれ!」といった要求がでてきて、我々が動いていくというような…。 最初の問題提起は我々の役割かなと思います。それを受け止めていただいて、 我々に投げ返してもらう。そうしたキャッチボールをやりながら進めていくものじゃないかと思います。 こないだも〈佐賀市の冷凍食品の購入額が全国でも3位か4位である。農業県なのに何故だろう?〉といったことをエッセイに書いたんですが、反響が結構あって、多くは反発なんですね。佐賀県は共働きが多くて、社員食堂のある企業も少ないし、近くに食堂もないから弁当を持って行く。手軽で手っ取り早 い冷凍食品がいかに便利なものか分かって欲しい。それを意識の低さみたいな言い方をするのはやめてくれというわけです。なるほどなと思いましてね。私 はあちこちで農業県なのに冷凍食使用が多いとか、朝ご飯を食べない人の比率 が他より多いとか、『食卓の風景が見えていますか?』といった話をしてるんですが、私が言いたいのは自分たちで作ったものを、もっと大切にしようという ことなんです。選挙のマニフェストでも、私は学校給食での地元の農産物使用 を32%から42%に10%上げるを入れたんですが、甘かったな、もっと多くして もよかったかなと。今、西日本新聞の一面で食の特集記事が連載されてますが、とてもいい記事で、我々が『もっと佐賀の農産物を!』と一面広告を打つより 効果があるのではと思っています。そんなことからも、だんだん人々の食に対 する意識も高まってるんだなと感じますね。」 知事が最優先事項で考えてらっしゃる佐賀に仕事の場を増やすための具体策をお話いただけますか? 「二次産業、三次産業では地場産業の高度化。ベンチャーをつくる。事業を持ってくる。これが三本柱ですね。調べれば調べる程難しい点もありましてね。 今、多くの人々を雇用できるIC関連の事業には水が不可欠です。ところが佐賀の場合は、水のある所には土地がなくて、土地のある所には水がない。まとまった雇用を可能にする事業を育てにくいんです。そうは言っても、まさにこれ から20年〜30年、自分たちの子供や孫がどうやってここで暮らしていくのか? 生活していくのか? それを可能にする産業をつくっていかなければならない わけです。様々な問題点も含めて、この一年間は戦略づくりに専念しています。これからは人口も減っていきますし、量の時代から質の時代に変わらざるを 得ない。海苔や畜産なんかにしても、『量の日本一じゃなくて、単価の日本一に してください。その方がこれからは大事になります。』と言っているわけです。作る側からの反発もありますが、方向としてはそういう方向しかないと考えて います。行政も今までは生産者支援が多くて、作ったものをどう売っていくか にあまり興味を持っていなかったという反省点もあります。これからはマーケ ティングの 視点、買い手からのアプローチが必要になる。農家をまわって『あ なたの作ったものを買ってくれる人の顔を見たことがありますか?』とよく聞 くんですが、答えは殆どNOです。分断されている作り手と買い手の間をつな いでいかなければいけないんだと思います。私もだいたい出どころの分かるものしか食べないんですが、あの人が食べてるんだと買い手の顔が見えていれば、 当然作る側の意識も変わってくるし、きっと佐賀の潜在的な魅力にも気付くのではないか。佐賀は兼業農家が多くて、農政的な観点からはけしからん! となるんでしょうが、ある意味では豊かだなーと思いますね。朝早起きして田んぼ の仕事やって勤めに出る。二足のわらじをはきながら食べるものは自給自足で カバーできる。21世紀にこんな贅沢なことってないんじゃないんですか? 素敵 なことですよね。このことを時代の先端を行く素敵なことなんだって気付けば、 自分で作るんだからやっぱり健康にいいものを作ろうよということになりますよね。」 教育について自治体にどれだけ自由裁量の余地があるのか分かりませんが、 国の決めた枠組みから多少外れても、例えば、いろんな体験をしている社会人 が学校で子供達と話す機会をつくるとか、共通のテーマで子供達と一緒に考えるとか、そうした試みがもっとどんどんなされてもいいんじゃないでしょうか? 「教育は確かに国からガチガチにコントロールされていますが、ニッチ(すき 間)を狙って、できないこともないとは思います。今、オンリー・ワンの佐賀 体験授業というのを、小学校、中学校の授業プログラムに組んもらっていま す。佐賀でなければできないこと、佐賀にいるからこそできることを実地に生 徒達に体験してもらうんですが、例えば佐賀の米とよその米との違い、野菜を 食べ比べてもらって、新鮮な野菜は本当においしいんだということを実感してもらう。子供の頃から佐賀の良さに気付いて欲しい、分かって欲しいと思うんですよ。そういう人が増えていけば『佐賀にはなーんもなか』という意識も少 しずつ変わっていくんじゃないでしょうか。」 福祉も結構、介護も結構ですが、住民を真綿でくるんで、自分の足で立つ、 自分の頭で考える、自立して生きるといった人間の普遍的な能力をそいでいく ような施策は違うんじゃないかと感じるんですよ。 「全くそのとおりです。そうしたやり方は住民を不幸にしますよね。9月末に難病相談支援センターをオープンしたんですが、今、その管理運営をすべてある NPOに任せています。ある一定額を渡してこれでやってくれと。彼らは初めに、立派な建物はいらない。古い建物でいいから、そのかわり相談に来る人が 困らないように、徹底的にバリアフリーにしてくれという注文でした。土・日も開けて夜も7時までやるというのも、すべて彼らが来る人の便利を考えて決めています。行政に寄りかかるだけではダメ、官と民が一緒に考えていく、自主運営をする。彼らのこういう発想は、住民と行政の新しい関係をつくってい くんだと思います。 今、人々の意識はとても成熟してきています。施策も人気取りではすぐに底 が見えてしまう。住民の目が肥えている、目がとても厳しいということを実感しますね。こんなことは過去の地方自治体の世界にはかつてなかったような気がします。今年オープンした佐賀城本丸歴史館は社会教育施設として入場無料 にしているのですが、多くの人々が入場料を取れとおっしゃる。今まで有料の ものをタダにしろというのは聞いたことがありますが、タダのものを有料にしろというのは初めて聞きました。『何でそんなことを言うの?』と聞いたら、『だってあの維持管理費は税金でしょ?だったら、来た人からも少し取ってよ。そ の方が公平でしょ?』って。普通の人が言うんですよ。あっ、もうこんなに成 熟した意識の人々がいるんだと考えると、我々も仕事にハリが出ますよ。」 最後に自転車好きの一市民の私的発言ですが、これだけ平坦で自転車向きの土地柄なのに、県内でタンデム車(二人乗り自転車)に乗れないのはおかしいじゃないかと、よく心ある自転車屋さんと話すんですが、何とかならないでしょうか? 知事は同席していた広報スタッフに今朝の新聞を持ってきて下さいと依頼。持ってきてもらった朝刊の記事を見て驚いた。市の全域でタンデム車の走行を 可能にしたい旨、県への特区申請が市から提出されたとあった。何たるタイミング! 「市からの特区申請を受けて、我々も面白いと思いましてね。県警と話し合う 予定です。先日子供達3人と私の4人で上峰までサイクリングしたんですが、 子供達がまさに自転車に乗る快楽に目覚めちゃいましてね。次はあっちへ行こ う、こっちへ行こうと。私も車を持ちませんから、自転車であちこちまわるんですが、走ってみてはじめて問題点が見えてきますよね。走ってみるといかに走りにくいかよく分かります。佐賀市はもうちょっと自転車にふさわしい街にならなきゃいけないと思いますね。」 |