| 月刊「地域づくり」(地域活性化センター発行)2003年7月号巻頭エッセイ | |
「菜の花に誓う」 平成15年7月 佐賀県知事 古川 康 今年の三月三十日の日曜日、佐賀県内のある町で「棚田と菜の花フェスティバル」というイベントがあった。 僕は当時、候補者として県知事選挙の真っただ中にいた。 「棚田と菜の花フェスティバル」は、その町の、ある集落じゅうの田んぼに菜の花の種をまいて、時期が来ればいちめんの菜の花を楽しんでもらおうという企画だった。その前年にもやって大成功、そのときは菜の花レストランとして、菜の花畑の中でフランス料理を楽しむという趣向だった。 ところが、自然相手のイベントは、思いも寄らぬことがままおこる。今年は寒さだった。 街なかにいるとそう感じなかったのだが、どうやら今年はその里には春の訪れが遅く、だから菜の花が咲くのも、例年より遅れてしまうことになるのであった。 となれば満開の菜の花のもとでやろうとしているそのフェスティバルもできれば二週間、せめて一週間くらい遅らせないといけない。 そこの町長は、その事業にたくさんのお金を出してくれている県庁に相談しようとして、まず、役場の担当職員に話をした。 「なんとか一週間か二週間イベントを遅らせることができないだろうか。」 どういう答えになったのかは、このエッセーを読んでいただいているであろう、多くの公務員の方ならすぐにおわかりだろう。 そう、一週間延ばせば四月に入る。そうなれば会計年度が別になる。だから、簡単に延ばせばいいというわけには行かない。 「延ばすことはムリ。」というのが役場の担当課の判断だった。 四月にするためには繰越をすることになる。または今確保されている予算を流し、新年度に予備費でやるしかない。 そんな例なぞない。僕が担当でも同じ判断をしただろう。 結局、そのイベントは、すでに咲いていたところから菜の花を移植して、少し賑わい感を出したものの、あまり咲いていない菜の花の中での実施となった。 地元の集落の方がとてもハートウォーミングな対応をしてくれたことがせめてもの救いだったけれど。 これはしかたなかったことだろうか。 県民の眼から見てみると違ったように映る。 「なぜ、三月末にやろうとしているものが四月になっただけでお金が出ないのか。」 「その事業が県外から来たお客様に佐賀県の良さ、いちめんに咲く菜の花の見事さを感じてもらうことを目的としたものであるとするならば、中途半端な時期に観てもらうとかえってマイナスになるのではないか。」 これがフツーの感覚なのだ。少なくとも僕が選挙期間中に会った人たちからはそういう声しか聞かれなかった。 だから、僕はそういうことがあったときに相談してもらえるような、そしてそういう問題を解決していけるような県庁を作ってゆきたいと思った。 県民と県政との感覚の差をできるだけ小さいものにしてゆきたいと感じた。 僕も役人だった。だからそういうことを変えることの難しさはわかる。でもなんとかなる、という感じもまたわかる。 要はルールの問題ではないか。議会にもきちんと説明をし、そういうこともOKというルールを作ってしまえばいい。 四月一三日、僕は当選した。来年も同じような試みがあるとすれば、そのときはぜひともいちめんの菜の花のもとで楽しんでもらえるようにしたいと思う。ささやかながらも僕の秘かなる挑戦である。 |