2005年12月29日sport navi.com http://sportsnavi.yahoo.co.jp掲載
キーワードは自信・誇り・元気
古川康佐賀県知事インタビュー

●●徳島の新加入から始まり、京都、福岡のJ1昇格、甲府の入れ替え戦突破等々、今年のJ2は多くの話題を提供して1年間を終えた。その中にあって、サガン鳥栖が新たなスタートを切ったことも大きな話題のひとつだった。8位という順位は決して満足のいくものではないが、存続することだけを目的とし、毎年のように内紛を繰り返したクラブが、未来に向けて夢を語れるクラブになったことは誰もが認めるところ。それは、フロント、現場スタッフ、行政が手を取り合って努力を積み重ねてきた結果と言える。そんなサガン鳥栖の1年について、クラブ改革を支える古川康佐賀県知事にお話を伺った。●●

(インタビュー・構成:中倉一志 取材日・12月22日)


サガン鳥栖の改革を支える古川康佐賀県知事【Photo by 中倉一志】

■新生サガンの初年度は合格点

−−新しく生まれ変わったサガン鳥栖の1年目が、14勝10分20敗で8位という成績で終わりました。まず全体的に見て、県知事のご感想をお聞かせいただけますか

「順位的には、もうちょっと上へいけたんじゃないかなという残念な気持ちが残る一方で、観客動員数が、クラブ側の目標には達しなかったものの、前年の倍以上のお客様に来ていただいたということがありました。何より、非常に会社がしっかりしたんで、何があっても安心して見ていられるという安心感、こういったものがあった年だったと思います。目標どおりに行かなかった面もありますけれど、総じて言えば、新生サガンの初年度としては良かったんじゃないかと思います」


−−京都、仙台には3勝1敗。昇格した福岡にも全く互角の戦いを演じました

「京都は1回損しましたよね。ギリギリまで勝っていたのに、惜しかったのになあ。まあ、上位に強かったというのはあったんですけれど、その代わりザスパに・・・。あそこで(第16節)で勝てなかったのが大きかったですよね。この前、松本監督と話したときに、あの試合が今季のターニングポイントだったんだと。あそこで勝ちを逃したところで流れが変わったかなという感じだったですね」


−−若いチームが勢いで勝っていた分、あそこで勢いをそがれたみたいな形になってしまいましたね

「そうそう。逆に無我夢中で何も見えない分、波に乗れば行けるということなんでしょうけれど、一辺止められてしまうとそうはいかない。そこが、J最年長の監督が、平均年齢最年少のチームを率いているという、ひとつの表われだったかなという気がしますね」


■観客動員数増加は欠かせない

−−観客動員の面では、今シーズンはホーム平均で7855人の観客を集めましたが、クラブ側は、来シーズンは固定客を10000人まで増やす計画と聞いています

「そうですね。目標としたら大変だなと思うわけですけれども、常にそんなふうにチャレンジしていないと。『去年良かったから、このままではいいや』ということにはならないということですよね。それを我々も全面的にサポートしていきたいと思っています。それに、今の井川社長以下の会社だったら行けるんじゃないかという感じがしますね。何もなくて仰っているわけじゃないだろうと思うわけです。何か玉手箱のように、いろんなおもちゃが入っていて、我々を楽しませてくれながら、喜んでスタジアムに向かわせたり、お金を使わせたりすることが出来るんだろうと私は思っています。

 75000円のドリームシートも、80席全部が売れたという話なんで、良かったなと思いますね。そういう期待感の表われだと思います。J1でプレーしたいということは、我々も含めて誰しもが思っていることで、本当にそれをやっていこうとすると、やはり観客動員数がきちんとしないと、クラブとして安定的に運営できないというのがあると思います。

 いまはJ1へ行かれたある社長さんが、『J2上位というのは悪くないんだよ』と言われるんですね。J2上位というのは、次はJ1にという目標を、クラブもお客さんも一緒に持てる。しかも、それが実現できそうだということで盛り上がると。それでお客さんにも来てもらいやすい。結構、勝つんで満足感も高い。そういったようなことを何年か繰り返すことによって、次こそはという感じになって、一番高い盛り上がりのときにJ1に行く。そういうことを繰り返していくうちに、基盤となる安定したサポーターがしっかりと出来ていって、そこに財政的な基盤が出来た上でJ1に行って戦えるようにしていくのが理想なんだと仰っているんですね。

 そういったことを考えれば、鳥栖スタジアムに20000人の観衆を集めて、きっちりと入場料収入が入るというふうにしておかないといけないと。まあはっきり言えば、J2の順位というのは人件費の順位でしょ。ですから、選手にきちんとした年棒を払えるだけの環境を作っていくためには、大きなスポンサーにポンとお願いするというよりも、やはり、1人、1人に、わずかかもしれないけれども、お金を出してもらうということに尽きると思いますね。

 もちろん、スポンサーはスポンサーで探してもらわなければいけないんですけれど、例えるなら、メジャーリーグから連れてきた一発屋に頼むんじゃなくて、つないでいくという野球をやろうとするチームに相通じるものがあるんじゃないのかな。やはり自分たちのクラブなんだと。そのために、今回、地元の選手を取ってもらってるんですよね。まあ、地元の選手ばかりじゃ弱くなってしまうかも知れませんけれど、やはり地元の人間をある程度入れて身近さを感じてもらうということも、ある意味では必要ですし。そういう意味では、うまくやっておられると思います」


「自信」「誇り」「元気」が地域づくりのキーワード【Photo by 中倉一志】

■子どもたちに夢を

−−ところで、サガン鳥栖をバックアップされるに当たって、佐賀県にプロサッカーチームがあることの意義や、運営することによって県民の誇りにつながるということをアピールされたとお聞きしました。その意義、誇りについて、もう少し具体的にお聞かせいただけますでしょうか

「プロのスポーツクラブというのは、ここしかないわけですね。それは大きな夢につながると思うんです。例えば、算数の勉強をしなさいとか、国語の勉強をしなさいということは親から言われると思うんですけれど、サッカーをやりなさいと親から言われてやっている子どもはいないんですよね。やはり好きでやっていて、本当に好きで好きでたまらなくって、もっともっと上手くなりたい子どもたちが行き着くところが、自分がこれで生きていければということだと思うわけです。

 でも実際に、そんなふうにして暮らしている人がいるのかと。確かにTVには映っています。世界中にそういう人がいるというのは分かっています。けれど、自分たちの地域に、目の前にそういう人たちがいるというのは、自分でもやれば出来るんじゃないかと思う、一番の要素だと思うんですよ。やはり、身近にそういう目標だとか、そういう人がいるということは、励みにもなるし、やれば出来るんじゃないかということにもつながるわけです。

 スポーツの世界で、そういった人たちが地域にいてくれるというのは、非常に大きいと思います。サガン鳥栖も、そういうことを非常に良く分かっていてくれるので、選手をいろんな地域のイベントに出してもらっているんですね。実際に見せてほしいんですね。子どもたちに「ほら、プロの技は違うよね」といったところを見せることによって、子どもたちに夢を持たせてほしいと思います。

 地元の新聞に小学校の高学年のクラスの全体写真を載せて、将来、何になりたいかということを書いてあるコーナーがあるんですが、そこに「サガン鳥栖の選手になりたい」という男の子が出てきたんですね。去年までも、サッカー選手になりたいと言う子どもはいました。でも、サガン鳥栖の選手になりたいというのは、あまり知らなかったんですよ。けれど、今年は結構よく見るんですよ。そういうことなのかなと思います。

 それに、サッカーを応援するという行為がありますよね。楽しいことは動物でもやると思います。でも、動物と人間の違いは応援だと思うんですよ。動物って応援しますか?コンピューターと人間の違いといえるかもしれませんね。

 10年位前に、IBMが開発したディープブルーというチェス専用のスーパーコンピューターと、ロシア人のチェスの世界チャンピオンが戦ったという話があって、一度目は確か人間が勝ったんですけれど、そのとき、「最後は周りの友達が自分のことを、がんばれ、がんばれと応援してくれた。でも対戦相手のコンピューターを応援するコンピューターはいなかった」と優勝した人がコメントしていたんですね。ここが人間と機械の違いだろうと思うわけですよ。

 自分にとって一銭のプラスにもなるわけじゃないのに、勝ったら嬉しい、負けたら悔しい、そういう気持ちを味わえるというのは、人として、とても贅沢なことだと思うんです。そういう思いをさせてくれるというのは、私は地域にとって非常にありがたいことだと思っています」


■自信・誇り・元気が地域づくりのキーワード

−−県知事は自治省に入られた理由のひとつに、地域を元気にされたいということを上げられていました。また、生まれ故郷の佐賀県に恩返しをしたいということも常々仰っています。そうしたことと、サガン鳥栖を応援するということがつながっていらっしゃるのではないかと思うのですが

「ええ、そういうことなんですよ。言い方が悪いかもしれませんが、サッカーはひとつのツール。目指しているものは、地域が元気になる、みんなが誇りを持てるようになること。『自信』と『誇り』と『元気』という、数字にならないキーワードこそが、これからの地域づくりに求められていると思うんですね。

 ここ10年くらい、景気が悪かったせいもあって、みんながお金のことで一生懸命だったじゃないですか。お金が道具みたいになって、お金としての尊厳を失っているところがあったと思うんですね。さらに年末に来て、耐震強度偽装問題が起こって、『安ければ何でもいいのか』ということで、『ただ単に経済原理主義で任せておけばいいというものではない』とゆり戻しが来ているんだと思うんですね。

 中央政府は小さいほうがいいと私は思いますけれど、自治体というのは小ささではなく、程よさだと思うんですよ。自治体が小さくなればなるほど切り捨てられる人たちが出てきますよ。そういう人を本当に切り捨てて地域というのは成り立っていくのかというと、私たちはそうじゃないと思っているんですね。小さな政府論者からは怒られているんですよ、そういう自治体は甘いと。でも、自治体が甘くなかったら誰が甘くやってくれるんだと。

 家族がいる人はいいでしょう。親がしっかりしている人もいいでしょう。でも、そうじゃない人たちの面倒を、経済で切り捨てられた人たちの暮らしを誰が保障するんだろうと思うわけですね。そのために税金を払ってるんじゃないのかよと思うわけですね。だから、そういう意味で、経済原理主義に対するゆり戻しが次に来ると私は思っているんです。そういうときのキーワードというのは、『元気』だとか、『誇り』だとか、『自信』だとかね、『やさしさ』だとか、そういったことになると思うんです。

 サガン鳥栖というクラブが、現役を退いた選手たちに対しても、非常に思いを寄せているということを私は嬉しいと思っているんですね。単にいい選手ばかり取ってきて、またいなくなりますということではなくて、そういう選手たちが幸せに暮らしていけるということは大事なことなんじゃないかなと。25日に有馬記念がありますけれど、パドックに入れなくなった馬が、それなりに役割を発揮して暮らしてもらうということを目指す厩舎があったら嬉しいじゃないですか。そういうものと通じることを感じているということですね」


「佐賀県で育った人は、佐賀県で支える」【Photo by 中倉一志】

■佐賀県で育った人は佐賀県で支える

−−また、県知事は佐賀県で育った人たちを佐賀県で支えられるように仕組みづくりが必要だとも仰っています。これは、サガン鳥栖で引退を迎えた選手を、その後もサガン鳥栖が支えたいとする井川社長の願いとも一致する部分ですね

「そうなんですよ。むしろ、私が井川さんから教えられたんですけれどね。そういう考えもあるんだよということで。今までサッカーの指導者というのは基本的に学校の先生でしょ。学校の先生よりはプロでやっている選手の方が、少なくとも技術的には上ですよね。まあ指導の勉強はしなくてはいけませんけれど。もちろん、佐賀県サッカー協会の中でも、プロでやっていた人たちがメインになる時代はまだまだ来ていませんけれど、全体的に少しずつ人が変わっていくんだと思うんですね。

 そういうときに、サッカーの選手は終わったけれど、どうやって佐賀で暮らしていこうかというときに、何かの支えが出来ないかなと思うんですね。一番いいのは教職に就くことかもしれませんけれど、どこかの企業で雇ってもらって、何か指導をしてもらうような措置のしようがないかとか、そういった人を雇ってくれている企業に優遇措置を取るとか。我々は私企業に対しても社会的責任を果たすこととか、地域貢献を求めているんですね。ですから、自分たちはそういう人を雇い入れて、地域のサッカー文化の貢献に役立てていますというようなことを係数化するだとか、そういうこともあるかもしれないし、そこは工夫したいなと思っているんですけれど」


−−もうひとつ、青少年が健全に育つ環境をどうやって作っていくかということも課題に挙げられています。そういった意味でもプロサッカーチームが果たす役割というものもあると思いますが

「大きいですよね。私もそうでしたけれど、若いうちは元気ですから。力が余っていますから。ですから、青少年に力の出し方、場所をきちんと見せるという意味で非常に大きいと思いますね。自分をもてあまし気味の人たちは絶対にいると思うんですよ。『ボールでも蹴ってみろよ、気持ちいいぞ』といったところで、気持ちの持って行きようがたくさん出てくると、別の方向に走る子どもたちも減っていくだろうし、自分でプレーするのもそうだけれども、応援することだって楽しいですからね。楽しみ方を一杯知ってくれるといいなと思っています」


■満員の観客のもとで開幕戦を迎えたい

−−いろんな形で行政からの支援というものがあると思いますが、これからは県民も受動的な立場にいるのではなく、自らが積極的にかかわっていくということも大事になっていくのではないかと思いますが、いかがでしょうか

育っていけば、やがて必ずそうなるだろうと思っています、放っておいても。例えば、鹿嶋の人は、頼まれなくても全国大会みたいな所へ出かけていけば、『アントラーズの鹿嶋から来ました』と言うんでしょうし、あるいは小さなグッズを自分たちの宣伝代わりに配ったりということもあるわけですよね。そういうことは、誰かに「やれ」と言われてやるんじゃなくて、やりたくなる、そんなふうになるように、是非、していきたいと思うんですね。

 もちろん、サポーターというのは支える側なんですけれど、彼らはただ支えるだけじゃなくて、やっぱり引っ張っていく側に。後ろからグッと押すのもあるだろうけれど、前に出て引っ張っていくというのもあるわけですよね。そういう役割をしだすと面白いなと思いますね」


−−サガン鳥栖は、井川社長が3年でJ1。10年でトップレベルを目指すと仰っています。そういう意味で、J1を睨んだ場合、来シーズンは非常に大事な年になると思います。県知事のサガン鳥栖に対する期待をお聞かせください

「順位が半分ずつになって行けばいいなと思っています。今年は8位でしょ。来年は4位、翌年2位と。そういうイメージで行くといいなと。8、4、2で行けば3年でJ1ということになりますね。でも、今回3つ落ちてきたでしょう。強いですよね、その3つは基本的に。さらに仙台もえらく補強しているという話だから、そうなると、『4強みたいなものに挑む、草の根軍団』みたいな形になるかもしれないんでね、とにかく、そこの一角に食い込むということだろうと思うんですよね。まあ京都には勝っていたわけですから、そんなに気おくれすることはないかなと思うんですけれど」


−−非常に可能性を感じるチームになってきましたよね

「そうですね。やりようによっては、これほど変わるのかということだったと思います。それと井川社長は個人資産でオーロラビジョンを寄付されたじゃないですか。オーロラビジョンが付くと、サポーターもまた変わったなと感じる。そういう感じだと思うんですよ。『また変わっている』『また面白いことをやってる』。そういうことだと思います。ですから、是非、開幕戦を満員の観客の下でスタートさせて弾みにしたいと思います」


●●「ところで3月4日のスケジュールは、どうなっている?空けておくように言っておいたはずだけど」。インタビュー中、来シーズンのことに話題が移ると、真っ先にスケジュールを確認した古川知事。もちろん、目的はサガン鳥栖の開幕戦を観戦すること。まだ2ヶ月以上先のことだが、新生サガン鳥栖として大事な2年目の開幕は、何があっても見逃すわけにはいかないということだろう。1年間を通して高まりつつある県民のサガン鳥栖に対する関心は、クラブが佐賀県の「自信・誇り・元気」を担う存在になり得ることを示すもの。来シーズンのさらなる飛躍を期待したい。●●