| 財団法人 日本公衆衛生協会発行 月刊『公衆衛生情報』2004年9月号掲載 新企画出版社 |
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| 特別インタビュー 古川 康・佐賀県知事に聞く 「育児保険」「子育て宝くじ」を財源に 子育て支援を九州・山口から変える! |
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いまの子育て支援策はかゆいところに手が届くようにはなってない。しかし、拡充するには、お金がかかる。では、どうしたらいいのか……。全国の自治体はいま、こうしたジレンマに頭を悩ませています。九州地方知事会は今年五月、「子育て・育児保険」や「子育て宝くじ」といった財源確保策などを提案した「育児費用の社会的支援等に関する研究会」中間報告をまとめました。そこで、事務局を務めた佐賀県の、子育て真っ最中の若き知事、古川康さんに九州・山口から発信するユニークな提案などについて伺いました。
予測される急激な人口減少 合計特殊出生率の高い九州地方も例外ではない ――厚生労働省が平成十五年合計特殊出生率の全国平均が一・二九に低下したと発表しましたが……。 佐賀県の合計特殊出生率は一・五一と比較的高いのですが、これは県民一人ひとりの努力の賜物です。佐賀県はこれまで全国三位とか四位といった高い水準を保ってきましたが、最近は全国的なトレンドと期を一にして低下の一途を辿っています。佐賀県の人口動態の特徴は「社会減」ですから、合計特殊出生率の減少は深刻です。「自然増」を保っておかなければ、人口を維持できません。平成十四年は「自然増」でしたが、十五年には二四八人の「自然減」に転落しました。これに「社会減」が加わると人口減少が予測され、危機感を募らせています。今後の人口減少社会にどう対応するかを考えるのは日本の大きな課題ですが、その一方で子どもを産もう、育てようと思える社会をつくり上げることも大事な問題ですから、佐賀県の合計特殊出生率を上げるのは私の責務と思っています。 ――古川知事は全国の知事で二番目に若く、子育て支援には熱心のようですね。 子どもが三人もいますからね(笑)。冗談はさておき、まず子どもが生まれる前からの支援としては、昨年度から全国に先駆け、不妊治療への助成を始めました。不妊で悩む女性にとっては、心のケアが大事ですよね。ですから、助成制度と相談窓口の設置をセットで行っています。不妊治療を目的化することはいろいろ問題があるでしょうから、まずご本人の悩みをしっかり受け止め、それから「不妊治療にチャレンジしてみますか。その助成制度がありますよ」と紹介する、相談を重視した取り組みにしました。不妊治療への助成には当初一〇〇人分の予算を準備しましたが、七月末現在ですでに九五人が活用されています。この事業を始めてよかったなと思うのは、保健所に設けた相談窓口を利用する人がたくさんいらしたことです。いきなり医療機関に行くのは気が引けるのでしょう。「こんなことでも相談に乗ってくれるのですか?」と随分相談に見えたようです。 不動産屋さんが学童保育を熱望? どの小学校区にも学童保育があるという環境を整えたい ――保育所調理室の規制緩和によって、栄養バランスのとれた「行列のできる店」の食事を園児に提供するといった提案をはじめ、保育所対策も積極的と聞いています。 そうですね。いまはとくに保育所整備に力を入れています。佐賀県は小さい自治体が多く、国が定めた認可保育所の設置基準どおりでは保育所がつくれませんし、コスト面でも問題です。そんななか、病院や福祉施設などの事業所から「自分たちの施設の近くに保育所をつくりたい」という話が出てきました。定員一〇人なら、財団法人21世紀職業財団から事業所内託児施設として助成を受けられますが、それ以下は対象外。そこで、県独自に補助を始めました。そうしたら、「それなら子どもを産みます」という声が事業所を通じて入ってくるようになったんです。多様な受け皿が、子育てと仕事の両方でがんばっている女性のサポートには欠かせないと思います。 ――今年、学童保育も全小学校区で取り組めるように補助制度を拡大されたそうですね。 長野県庁に勤務していたとき、子育て中の女性職員がお子さんが小学校に上がるからという理由で退職したことがあったんです。「保育所なら遅くまで預けて仕事ができたけど、小学校だと早く帰宅するので自分も早く家に帰らないといけない」というわけです。「子どもが小学校に上がるからやめる」という現実はある意味で衝撃でした。それでこの方針を打ちだしました。 もう一つエピソードがあるんです。佐賀市にはいま有償ボランティアによる学童保育があるのですが、そのきっかけが実にユニークなんですね。発端は、ある不動産屋さんからの苦情電話。県外から転入されたご夫妻が物件を探しに訪れ、いざ契約という段になって「ところで、この物件の学区には学童保育はあるんでしょうね?」と聞かれ、調べてみたら何と学童保育がない! 不動産屋さんがそう答えると、キャンセルされてしまった。それで不動産屋さんは「学童保育がないから、お客さんに逃げられたじゃないか」と市に苦情を入れたそうです。これが一つのきっかけで有償ボランティアによる学童保育が始まったわけです。県民にとっては、安心して子どもを預けられる場所があるかどうかが住みやすさの判断基準の一つなんですね。だから、どの小学校区に行っても学童保育があるという環境を整えたいと思っています。 子育て中じゃない人も含めて社会のみんなで支援する「育児保険」と「子育て宝くじ」 ――九州地方知事会では、今後の子育て施策のあり方と財源確保策について話し合い、今年五月に中間報告を公表しましたね。 わが国の社会保障の費用は、およそ八一兆円(二〇〇一年度ベース)と言われています。今年の国家予算が約八二兆円ですから、それに匹敵する大きな額です。ところが、半分が年金、そして残りの三割が医療に使われ、残った二割を児童福祉、障害者福祉、高齢者福祉で分け合っているのが現状なんです。うち、子育て支援に使われているのは、たった三・七%。あんまりだと思いませんか? そこで、九州地方知事会では「育児費用の社会的支援等に関する研究会」を立ち上げたんです。かぎられたパイの分捕り合戦では、抜本的な改善はむずかしい。施策の充実をはかるのなら、自分たちで財源を確保しなくてはいけません。かつ、県民に負担をお願いする場合にも、国まかせではなく自分たちで説明責任を果たすことが避けられませんよね。そういう危機感を持って中間報告をまとめました。 ――中間報告には、育児費用の社会的支援という言葉が出てきます。 育児というのはとても個人的なことですが、子どもは社会を支える宝でもあるので育児費用を多くの人で支援し合いましょうということです。いまは子どもを育てている人たちだけで費用を負担していますが、子どもを産んでいない人、育てていない人も含めて費用を負担しましょうということで「子育て支援・育児保険」を提案しました。そういうしくみによって、子どもを産むとお金がかかって大変だというハードルを低くしたいのです。子どもを産む、産まないということはすぐれて個人的なことで、生き方にかかわりますから、意思がない人にまで「産みましょう」とは言いません。でも、どんな人でもゆくゆくは、子どもたちが成長してつくり上げる社会のお世話になることは間違いないですからね。この保険は社会を支える子どもたちを育てることに対し、何らかの負担をいただくことができないかという提案です。今年七月にまとまった県民満足度調査のなかで意識調査をしたところ、子育てに要する費用は社会全体で負担することに賛成であるという人は四五・八%、反対意向のある人は三七・一%という結果がでました。やや拮抗していますが、きちんと説明すればご理解をいただけるのではないかと思います。 ![]() ――ほかにも財源確保のアイデアはあるんですか。 「ワンコイン未来への投資」というのがあります。九州地方知事会では、次世代育成支援対策推進法の保育・子育て支援事業に関する特定一四事業の拡充にどれくらいお金がかかるか試算をしました(表参照)。やはり、かゆいところに手が届く支援策にするには、すごくお金がかかるんです。しかし、仮に県民税均等割超過課税というかたちで、すべての人や事業者から月額一〇〇円をいただくと、九州・山口で年額六〇億円を確保できます。また、子育てのための宝くじなら買いやすいんじゃないかと思い、「地域子育て宝くじ」(九州・山口の共同事業)も考えました。売上げを子育て支援の費用に回すわけです。もちろん、当選発表は五月五日の子どもの日にやるんですよ(笑)。いま二〇〇兆円ある年金積立金が別の目的に使われていることが判明し、国民の批判を買っていますよね。変な運用をせずに、これを奨学金などの貸付金の運用財源にすることも提案しました。こういうさまざまなアイデアに対して、「おもしろい」とか「けしからん」とかいろいろな声を聞かせていただき、いい道を探りたいと思っています。読者のみなさんもいいアイデアをお願いします。 表 特定14事業の費用推計(九州内A県分) ○九州内のA県を例に、各事業の一箇所当たりの単価を平成15年度の予算と箇所数から割り出し、一定の仮定をおいて目標量を設定した後、その目標量を達成するための費用の額を推計した。あくまでも将来的に望まれる費用の規模の見当を付けるために粗々に推計したものである。 出産は「痛そう」? 子育ての素晴らしさを正しく伝えることが関係者の役割 ――いまの子育て支援の議論で不足していると感じる点はありませんか。 子育て支援というのは、私たちの社会全体の設計図をつくっていくことだと思うんです。そう考えると、これまでの児童福祉の延長でいいはずありません。OECD(経済協力開発機構)加盟諸国のなかで出生率が向上した国は、婚外子が増えたスウェーデンと移民を積極的に受け入れるアメリカですよね。つまり、社会の構成をどうしていくかまで問われるわけです。だから国には、私たちの国をどうするのかという議論をもっとしてほしい。また、地方自治体も自らアイデアをだして取り組んだり、国の施策を現場で展開した結果こうなりましたよ、と現場の情報をどんどん伝えないといけません。 ――母子保健関係で期待することは何かありますか。 先日、母推(母子保健推進員)さんの大会に初めて行ったら、私の後援会スタッフが母推さんとして参加していたんです。いろいろ聞いたら、「大変だけど、やりがいのある仕事」と話してくれました。佐賀県みたいに地域のつながりが比較的強いところでは期待が大きい。都市部でもだれかが困っているお母さんの子育てをケアしてくれるわけではないでしょうから、役割は大きくなると思うんです。一人で子育てをしているお母さんにとっては不安でたまらない、でもだれでもいいからといって玄関を開けて招き入れるわけにはいかないですよね。「だいじょうぶかな?」と見守ってくれる母推さんは、これまで以上に大切になります。児童虐待の可能性などを行政が察知するといきなり「虐待してませんか?」と聞きがちですが、日頃から常に視線と気持ちを送っている母推さんなら、さり気なく「だいじょうぶ?」と入れます。NHKの番組「ご近所の底力」の感覚です。自信と誇りを持って活躍してほしいですね。 ――公衆衛生にかかわる人たちに求めることはありませんか。 三〇歳以上で子どもを産んでいない未婚女性を「負け犬」と表現して話題になった『負け犬の遠吠え』の著者、酒井順子さんの『少子』という本を読んだら、彼女なりの少子の原因が分析されていました。彼女曰く、女性たちが子どもを産まないのは「痛い」「痛そうだから」が一番の理由なんだそうです。そのむかし、出産という行為はきわめて秘めやかなる、ごく一部の人にだけ語り継がれていた行為だったわけですが、それが大っぴらに「こんなに痛いんだ」と語られ、一方的な情報にだけさらされ、「違う」「そうじゃない」と言う人がいないのが問題だと指摘してるんです。それで彼女は「どうせいっちゅんじゃい!」と怒ってる。なるほどと思いました。いまの議論では、そういう当事者の感覚、現場感覚みたいなものが大事にされていません。これからはそういう意見にどう応えるかが問われると思います。公衆衛生の関係者も、子育てしやすい環境やしくみづくりはもちろん、こうした声にどう応えていくかきちんと考え、正しい情報を伝えないといけないと思います。 (聞き手/徳田 武) <略歴>古川 康 (ふるかわ やすし) 昭和33年佐賀県唐津市生まれ。57年東京大学法学部を卒業、同年自治省に入省。自治大臣秘書官、長崎県総務部長などを歴任。平成15年、日本ではじめてマニフェストを掲げ、佐賀県知事選に挑戦。同年4月全国で一番若くして知事に就任。「オープン」「現場」「県民協働」をキーワードに、新しいこと正しいことに挑戦する佐賀県政に取り組む。九州知事会では「育児費用の社会的支援等に関する研究会」を立ち上げ、「育児保険構想」を提案するなど子育て支援にも全力投球。 |