Top Interview 2004(2004年1月発行)掲載
発行 株式会社リクルート九州支社
スペシャルインタビュー 九州・沖縄の知事に訊く
キラリと光る企業・人・まちづくり

注目の産業はデジタルコンテンツ。
佐賀県のオリジナリティーと情報発信力を高めたい。


佐賀県の産業を活性化させるための取り組みについてお聞かせください。
古川知事
3本柱で考えています。
一つ目は、既存の産業をどう元気づけていくかという産業再生。
二つ目は、どう新しい産業を創っていくかというベンチャー創出。
三つ目は、いかに元気な企業を引っ張ってくるかという誘致。
この3つの面から産業振興を考えています。

一つ目の産業振興でいえば、これまで佐賀県を引っ張ってきた焼物業界が厳しい状況にあると言わざるをえません。この状況を打破し、焼物業界を再生・近代化させるための取り組みを生産者と一緒に計画づくりから始めています。
その一つとして、佐賀県窯業技術センターでは、天然素材のみを使用した無鉛絵の具を発明し、特許を取得。環境・安全への配慮と近い将来の化学的な染料の規制に備えていち早く取り組みました。
また、工業製品としての器という狭い視野で捉えるのではなく、飲み物や化粧品が入った有田焼があってもいいじゃないか、今まで入れてなかったものを入れてみるという発想で器づくりをしたらどうか、という可能性を訴えています。
他にも首都圏の見本市等へ積極的に出展するなど、生産から販売までをフォローする体制を作り、有田を中心とする肥前の焼物産業支援を積極的に進めています。

新しい産業分野を創っていく施策にはどのようなものがありますか?
古川知事
はい。佐賀県では他県がやっていない「トライアル発注制度」を実施しています。
簡単に言うと、県内企業が開発した製品を県が試しに使おうという制度です。
これまで新商品開発は県が補助金を出してやってきました。しかし、ようやく新製品が出来ましたと企業の方がこられても、県としては実績がないから、という理由で購入しなかったのです。煽っておいていざ製品ができたら知らん顔ではいけない。行政はややもすればどこかが使うのを待っているという二番手主義。それを断ち切って、実績の有無にかかわらず、いいものは自分たちがフロントランナーとして使おう。そして使ってみてよくなければきちんと指摘し、いいものであれば、県庁に納めたという実績を標榜していいよ、と。

なるほど。開発経費を支援するのではなく、あくまでも作られたものを購入するというわけですね。
古川知事
そうです。技術開発に対する支援よりも、作った製品への評価のほうがありがたい、という企業の声も多かったのです。私としては30品目くらいの応募があれば成功だと考えていましたが、実に105品目の応募があり、企業の前向きな姿勢を実感しました。
その中からシックハウスに対応するための壁材や廃棄タイヤを使ったゴムマットなど27品目を選び、これから発注に入るところです。
この制度で、新しい産業を育てようという意気込みを感じていただけるとうれしいですね。

三つ目の誘致に関してですが、やはり他県ではやっていないことを?
古川知事
はい。これも新しい取り組みなのですが、伊万里の工業団地を「ワンコインリース」と称して、1坪100円で売り出しています。
これまでは全く売れずに困っていた工業団地ですが、結構反響を呼んでいます。
100円ショップで売り出したら面白いですよね(笑)。ようは売り方を変えるという発想です。
売れないまま資産を持ち続けるよりも、使ってもらうことで新しく雇用が生まれ、税収も生まれる。そんな観点で誘致を進めることも大事だと思っています。
雇用の機会を増やしていくためにも、この三つの柱をきちんと働かせていくことが必要だと考えています。

1万人の雇用創出という目標を掲げておられますが、有力な産業の候補には、どのような分野をお考えですか?
古川知事
注目しているのはデジタルコンテンツ産業です。
例えばプロデュース機能などは大都市圏で広がっていくのでしょうが、実際に発生するメタデータ処理には大量のオペレーション作業が発生します。それを佐賀県でやれないかと。
実現すれば、健常者だけでなく障害者の雇用にもつながります。
このような付加価値のつく新しい産業を創出したいと思っています。

知事公舎には蛍、県警本部前にはしじみ。こんな環境、他にはないでしょ。

魅力ある地域づくり、地域活性化のために、佐賀県に必要なことは何でしょうか?
古川知事
佐賀県にはいいもの、素晴らしいものがたくさんありながら、それを声高に言わないという県民性があるようです(笑)。例えば海苔では日本一の生産量と品質を誇ること、夏でもみかんが食べられるハウスみかんの技術を確立したことなど、実は思いきった転換ができる土地柄であるにもかかわらず、その良さを県民が自覚してないのです。私は、これからの時代には、きちんと情報発信していくことがモノに付加価値をつけることにつながると考えています。
「こんなふうにしてやっていますよ。だからこうなんですよ」という物語をつけることによって、商品に愛着もわくし、20円くらい高くても買ってもらえると思うのです。
これからの佐賀の情報発信力をあらゆる面で高めていきたいですね。もちろん物語をつけながら。

佐賀県の情報発信を高めるという点で、具体的な例はありますか?
古川知事
昨年10月に三位一体改革について、佐賀県としての意見をまとめて発表しました。
具体的には、補助金が地方で自由に使える一般財源になったらどう変わるかということを幾つかの事例で話をしました。
例えば、おいしいと評判の食堂があり、ここで作られたものを保育所で使いたい。ところが残念なことに現在の制度ではできない。なぜか。保育所で出す給食はその保育所で調理されたものに限るという決まりがあり、そうしなければ補助金は出ないのです。
これが補助金が一般財源化されることで、おいしいと評判の新鮮なものを子供たちに味わってもらえる。
それで浮いたお金で保護者からの要求の強い延長保育などを実施できるようになるかもしれません。
また、企業内の保育所も60人以上の子供がいることを条件に補助金がでますが、一般財源化すれば5人でも保育所がつくれ、女性が働きやすい環境に近づくわけです。
このように、具体例を挙げながら県民に理解を求めました。
他県に同じではなく、佐賀県はこう考えているんだという発信をしていくことで、県民満足度を高めていきたいですね。

知事がお感じになる佐賀県の魅力はなんでしょう?
古川知事
知事公舎にはホタルが飛び、県警本部の前ではしじみが取れる。
そんな環境を持った県、他にありますか?
遊ぶ場所が少ないという不満の声は少々あるようですが、遊びたければ福岡市の天神まで1時間もあれば行けます。都会で暮らすためのコストを払わずに、自分の都合のいいときに都会の機能を楽しむことだって可能ですよね。都会と田舎の生活が両方楽しめる、そんな位置にあるのが佐賀県でしょう。
佐賀県の経済発展のためにも、隣接している福岡県のマーケット、人材集積を活かすことを考えていきたいですね。

観光という視点での佐賀県をどうお考えですか?
古川知事
まさに磨けば光る原石の宝庫だと思っています。
これからは、原石を磨いていく作業が必要ですね。
グリーンツーリズムにしても、都会の人が求める田舎らしさと本当の田舎は違います。
そのらしさの演出をどう考えるか。
食べ物の味付けにしても田舎風に都会人向けに味付けするほうが喜ばれますしね。
観光という点からみても、佐賀県は実にいい素材を持っています。
弱点をあげるなら、写真撮影に適した町並みが少ないことでしょうか。
街づくりも課題の一つと捉え、改善への取り組みも行っていきます。

農業という視点ではいかがですか?
古川知事
農業は、作ることには一生懸命ですが、売ることへの関心が薄いと思います。
ここに消費者の立場で農業を考えられる人や流通に長けた人が農業の分野に入ってくることで、売るという価値観を生産者にも植え付けることができると思います。
生産者にとって、買ってくださるお客様の顔を見ることはとても重要なこと。
例えば、みかんを買おうと思っている人は、何と比べているのか、競合しているものは何か、と考える生産者が増えれば増えるほど、消費者にとってはうれしい商品がたくさん生まれます。
そんな環境をつくっていきたいですね。

最後に、就職を控える学生へのメッセージをお願いします。
古川知事
若いうちは都会で、将来生活が安定したら佐賀県に帰って来よう。そんな人生のダブルジョブという発想があってもいいと思います。
人間、35歳を過ぎると無性に同窓会が気になるものです。
それまでは前だけを見て走っていても、ふと自分の生き方を振り返る瞬間がやってきます。
どういう人生をどんな場所で送ったら幸せなのか、という自分の一生を考えたときに、生まれ育ったところが魅力を帯びた色彩となって目の前に現れる。
そんなこともあるのかなぁ、ということを頭の片隅にでも置いてもらえたらうれしいですね。
佐賀県はまだまだのところ、これからのところが混在しています。いいところを残しながら、21世紀型の暮らしを実現するにふさわしい場所にするために、私も頑張ります。
あなたのチャレンジ待ってます。