PHP研究所 THE21 2003年10月号掲載
元気知事が語る 地域主権の時代

「オープン」「現場」「県民協働」が新生・佐賀のキーワードだ。
県民との対話を重視して「任せて安心」の県政をめざす。

お笑いタレント「はなわ」が歌うヒット曲『佐賀県』。「クラスの半分以上が、同じ床屋」といった歌詞の故郷ネタがウケて、今年5月のリリース後、ヒットチャート上位にランクインした。そのプロモーション・ビデオで「S・A・G・A・さが!」と、サビのフレーズを楽しそうに歌うスーツ姿の男性こそ、今春の統一地方選で当選したばかりの古川 康 佐賀県知事である。6月に開かれた県議会では、はなわに「感謝状の贈呈などを検討したい」とも答弁。新生・佐賀をめざして船出したばかりの知事のもとを訪ね、いったいどんな舵取りをしようとしているのか、古川県政の核心に迫った。

県民に信頼されるため、緊急対話集会を実施

知事就任後、毎月2回のペースで開かれている「知事とかたろうかい」。各市町村ごとに、地域の課題等について、県民と知事が直接、意見交換を行う場としている。 「古川知事との緊急対話集会」で熱弁を奮う古川知事。"地域経済の活性化"と"雇用の創出"を推進するため、各産業に携わる人々の生の声を聞き、政策立案の参考とすべく開催されている。

知事に就任され、候補者だったときに比べると、県民の声に変化がありますか。

古川
あります、あります。
候補者のときには、愚痴みたいなものが多かったですね。(笑)
それに対して、知事になってからは、「何々してくれ」という具体的な要望が増えました。
ただ、私が気になるのは、候補者のときには、互いに気楽に接することができた方が、知事になった途端に、「話にくくなった」というのです。「こんなことを知事に直接いったら、まずいのでは」という遠慮が働いているようです。

それは困ったことですね。

古川
これには、佐賀県民の控えめな県民性もあるのかもしれませんが、知事という立場は、放っておくと声が届きにくくなるんだな、と感じました。
このままだと、知事が直接、県民の声を聞いて、それに応えるというよりは、担当部署が考えたことに、知事として自分の意見をいうかたちで仕事が進んでいくのかな、という予感がします。
では、それで困るかというと、そうでもないでしょう。私も官僚組織の中にいましたから、「それはそれで動くよね」という気持ちは持っています。
しかし、仕事が動くからそれでよし、とするのではなく、佐賀県とか佐賀県政をできれば時代に合ったもの、あるいは時代の半歩先をいくものにしたいのです。
そうするには、県民の声を聞くのは組織で、トップは判断するだけというあり方では、不十分だと思います。

職員が県民の声に十分耳を傾けているかどうかも、問い直されますね。

古川
従来型の県庁の仕事では、どの部やどの課でどういう仕事をやるべきかというときに、霞ヶ関の所管官庁の、所管部局の所管課から、「来年はこんなことをします。県でもこんなことをやってください」というのがくるわけです。
逆にいえば、県はそれを待っていればよかったのです。国の施策に乗っていけば予算もついてきます。
従来型の県政の七割方は、そうした仕事の仕方だったのではないでしょうか。
これからは、そうではない部分、つまり国に頼らずに自分たちで問題を探し出し、考えて、行動して、解決策を見出していくというプロセスを増やしていかなければなりません。
そうすることで初めて、県民本位の県政が実現できるのだと思います。これには、私自身が率先垂範することが、何より大切だと考えています。

これまで積んできた行政経験をもとに、陣頭指揮するという感じですね。  

古川
ところが私は、29年間、佐賀県を離れていましたから、現在の佐賀県にどういう課題があるのかについては熟知していません。もちろん、選挙のときに県内はくまなく回りましたし、勉強もしましたが、県政全般に責任を持つべき人間の情報としては、まだ足りません。

それで就任後、改めて県内を回ったのですね。

古川
私の県政運営のキーワードは、「オープン」「現場」「県民協働」です。
マニフェスト(選挙公約)で緊急対話集会の実施を掲げていましたから、それを実行することが、県民に信頼感をもってもらうための第一歩だと考えました。
加えて、6月議会までに、知事として改めて県内を回りたいと思いました。
議会でどんな話題が採り上げられても、せめて「あれですね」と思い浮かぶレベルにしたかったのです。


到達度を設定することがマニフェストでは大切です。
知事選で示したマニフェストに方針と工程を加えて実現していく

古川知事が示した「49の重点実施項目」(一部抜粋)
重点実施項目 実施方針 実施工程
情報公開度全国ナンバーワン 情報公開度全国ナンバーワンをめざして、行政情報提供の総合的な推進に関する全庁的なルール化を行い、順次、県のホームページなどを通じて、積極的な情報提供を実施していく。 全庁的なルール化(9月)
ホームページ掲載(9月)
県民と知事との対話 全市町村を知事が訪問し、県民との意見交換会として、「知事とかたろうかい」を開催。
また、福祉施設や教育現場などを知事が訪問し、現場の生の声を聞く意見交換会として、「知事のうかがいます!(仮称)」を行う。
6月から実施
トライアル発注の実施 優れた製品などをもっているが、県からの受注実績が少ないベンチャー企業などへ、毎年10件以上のトライアル(試み)発注を行う。 発注先行実施分公表(6月)
発注基準決定・公表、発注対象製品を募集(7月)
選定委員会での選定(8月)
発注追加実施(10月)
地元企業への発注調達率 を10%アップ(ローカル発注) 県内企業からの受注機会の確保、雇用維持の観点から、対象とする事業者を選別し、地元企業を優先する発注・調達を推進する。 出納局集中調達物品の県内発注率10%増(2004年度)
設計委託の県内企業発注率10%増(2006年度)
4年間で1万人の雇用 介護や保育サービスでの雇用拡大を進めるとともに、雇用基金を活用した「森林環境整備緊急対策事業」の実施や、福祉や環境分野を中心に、NPOへの委託や有償ボランティア制度の創設などにより、4年間で1万人の雇用を創出する。 各種事業の実施により
3,200人(2003年度)
3,000人(2004年度)
2,000人(2005年度)
1,800人(2006年度)の雇用創出

そうして迎えた6月議会には、どんな思いで臨みましたか。

古川
私が県民との対話を重視していることについて、一部の議員からは「直接民主主義ではないか」という指摘がありました。ただ、直接民主主義というのは、代表者を決めずに自分たちでやるというものです。
私も県議会議員同様、直接、県民から選ばれています。
したがって、政策立案に際しては、私も県民から直接意見をうかがい、それをもとにした政策案について、議会で議論したいと考えています。
最近、首長と議会の関係について、「ガチンコで勝負する」とか「是々非々でいく」という声も聞きますが、私はできるだけ「是」といってもらえるような練りこんだ案を提案していきたいと思っています。
政治家として、自分が提案した議案を議会に否決されるのは、みっともないと思うからです。
議会で否決されるのがわかっているのに、自分の意地で提案したり、あるいは、議会との緊張関係を演出するようなこともしたくありません。
議員に対しても、これまで議会に対して行ってきた事前説明や根回しについて、「大いにやってくれ」といています。
そこでどんな意見がでたかも、すべて私に報告してもらいます。

その真意はどこにあるのですか。

古川
情報公開はたしかに大切な取り組みですが、私はそれ以上に、"意見をいいやすい"状態が望ましいと考えています。たとえば私あてに届く電子メールの中に、「情報公開ということは、このメールも公開されるのでしょうか」と心配するものがありました。「大丈夫です」と返事をして、ようやく本題のメールが届いたのです。
あからさまにすることで意見が聞きにくくなるのなら、無理にオープンにすることはないと思っています。
議会においても、自分がどうしても通したいという議案があったとすれば、事前にきちんと説明して理解をしてもらい、主旨が貫徹されるのであれば、修正してでも通したいと思います。
それが"古川流"といったところでしょうか。

マニフェストについては、まだきちんとした定義がないと思いますが、古川知事はどう考えていますか。

古川
「数値目標を具体的に示し、その達成を、自らの政治への評価と直接結びつけることを宣言した政策の集まり」といえるのではないかと思います。
イギリスの中央政府で用いられているマニフェストは、必要なら自分で制度を変えることができます。
つまり、「公共事業を減らして、そのぶんを福祉に回します」といったことが可能なのです。しかし、日本の地方自治体では、そうはいきません。福祉に回すための財源は、公共事業をいくら削っても出てこないのです。
ですから私は、マニフェストで掲げた49の重点実施項目をトータルで実行するといくらかかるか、ということを積算しました。その結果、5年間で100億円の財源が必要だということで、うち40億円を行革で、30億円を既存企業の経営革新による税収増で、残り30億円は企業誘致によって賄おうとしました。
その意味では、私のマニフェストは不完全です。そこで、「県民への政策宣言」と題した冊子の表紙へも、「マニフェストへの試み」と書きました。「試み」というのが、私の遠慮の部分で、本来のマニフェストとは少し違うなというのが、率直な実感です。

統一地方選でのマニフェストづくりには、現職有利という声もありました。

古川
まったくそのとおりで、新人がマニフェストをつくるというのは、容易なことではありません。情報がないからです。

都道府県の情報公開は、かなり進んでいるはずですが。

古川
ホームページから十分な情報がとれるという人もいますが、私の実感では、まだ無理ですね。
結局、県民や県政を知っている人に聞くしかありませんでした。
夢のある政策なら、いくらでも提案できます。しかし、マニフェストでは、実現性が問われます。かといって、努力しなくてもできる程度のものでは困ります。
「頑張ればできる」という天井の高さにしないといけません。
その点、役人主導だと、背伸びもしないで届く範囲しか目標にしないものです。
一方で、従来の政治家の公約は、届きもしない高い天井を指差しています。そのあいだで、ぐっと背伸びして、「ここまでやりましょう」という到達度を設定することが、マニフェストの肝心なところでしょう。

古川知事の政策ぶりがうかがえる表現ですね。

古川
ところが、わが国の政治の実態は、「政策」よりも「挨拶」です。選挙スタッフに政策をつくるための時間がほしいといっても、「そんな時間があるなら、挨拶回りにいったほうが票になる」といわれる始末でした。
それでも、「自分に票を投じてくれる方は、政策に期待してのことだから、それに応えられる政策をつくりたい」と、一日一時間を政策立案に充てました。

県の積極的な発注こそが企業への最大のエールに

当選したからには、政策づくりの環境は万全ですね。

古川
じつをいうと、知事に就任後も、政策をつくるための時間を確保するのは容易ではありません。
いろいろな会合にいって挨拶する。辞令を渡す。お客様に会う。一日の大半が、そうした行事で過ぎていきます。
よい政策をつくるために、県庁のスタッフと議論したいと思っても、その時間が満足に取れないというのが、現在の悩みの種です。

それでも、就任から一ヶ月あまりでマニフェストを施策化した「重点実施項目」をまとめました。どこがポイントですか。

古川
私の思いは、「ローカル発注」と「トライアル発注」に象徴されているといえるでしょう。両者とも選挙期間中に多くの方から要望されたことでした。
まず、ローカル発注についてですが、従来からの県庁の物品調達に関する県内企業の定義として、「県内に本店または、支店ないし営業店を有するもの」としていました。ところが、ある企業の佐賀営業所に電話をすると、転送されて福岡で受けているケースもあるのです。これを県内企業とみるのはおかしいのではないか、と思います。
そこで、県内企業の新しい定義として、佐賀県内の雇用の実態を反映させて、支店・営業店の場合は、「県内従業員比率が50%以上、または県内従業員数が50人以上としました。併せて、県内企業への発注率を10%高めることにしました。
コストだけをとれば、県外の大手企業に発注したほうが安くつく場合も多いのです。公金を預かる立場としても、一円でも安い業者と契約するのが当然でしょう。しかし、いまのように民需がしぼんでいる経済状態では、官公需の占めるウェートが高まっています。果たしてコストだけで決めてしまってよいのか、という問題提起をしたかったのです。
また、トライアル発注では、県内のベンチャー企業などの優れた製品を、県が先行的に発注します。
産業振興の観点から、ベンチャー企業に県が補助金を出したり、技術や商品を認定したりする制度がありますが、そうした制度を活用してせっかく新製品ができても、それを活用する先がない場合が多いのです。
地元企業が開発したある製品について、産業振興の部署に聞けば、「高度な技術力で市場性も十分」という返事が返ってくるのに、県庁の調達部署にその製品を採用するかと聞くと、「官公庁での受注実績がないので難しい」ということになってしまいがちです。たとえリスクがあっても、県が積極的に発注することが、企業の商品開発に対する最大のエールになると考えたのです。

これからの知事には、国に対する発言も求められると思います。

古川
いま、何よりも国に求めたいことは、政治に対して国民が信頼をもてるような国にしてほしいということです。
現在、佐賀県でも有事法制や国民保護法制に対する対応を検討していますが、その根底を左右するのは、政治に対する国民の信頼感です。
佐賀県庁についても同じことがいえます。私は知事として、県民の代わりに仕事をしているのであって、つねに県民の目からみて、おかしなことになっていないかどうかを糺(ただ)していかなければなりません。
職員には、自分の仕事を県民の目でみて、おかしなところがあれば、遠慮なく指摘するように指示しています。そうして県民から、「県庁に任せておけば安心」と思われるような県政をめざしていきます。

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マニフェストの到達度に話が及んだ際、古川知事はソファーからやおら立ち上がり、爪先立ちで背伸びをして「この感じなんです」と示してみせた。こうした身振り手振りのコミュニケーション感覚こそ、これから県が、国ではなく県民と向き合おうというときには大切なのではないか。行動力溢れる閉じの率先垂範で、任せて安心の佐賀県政が誕生することを期待したい。