日経コンストラクション2004 9-24 p 48掲載 
日経BP社の許可を得て掲載:2004/10/4
特集「地方が編み出す新技術活用策」より トライアル発注-----佐賀  
佐賀県知事 古川 康インタビュー

実績の壁を打ち破る制度を作りたかった

●●トライアル発注制度を導入したのはなぜか。
古川 長崎県の商工労働部長を務めていた5年ほど前に、現場に出向いて話を聞いて回った。すると、技術開発に対する支援策は手厚いが、開発した技術を公共事業で採用してもらえないという意見があった。
そこで、土木部などに対して、新しい技術を採用するようお願いして回ったが、「実績がない」という理由で色よい返事がもらえなかった。
そのとき、「本当に県として新しい技術を育成する気があるのか」と感じた。そうした壁を打ち破る制度をなんとか作りたいと考えた。

県全体が責任を負う仕組み

●●公共事業では実績主義がまん延しているとの指摘がある。
古川 新しい技術は既存の技術に比べて、失敗のリスクが大きくなりがちだ。それでも、まずは使ってみることが大切だ。試しに使ってみてうまくいけば、その成果をPRして営業のツールにしてくれればいい。うまくいかなければ、その結果をフィードバックして、より良い技術に改善してもらえればいい。
発注者に課せられる説明責任の重さが、実績を重視する要因になっている。新技術を活用した事業が失敗した場合、事業を実施した主体だけにその責任を押し付けるのは酷だ。トライアル発注は、2003年4月の知事選のマニフェストで掲げた。県全体が責任を負う仕組みであれば、新しい技術を採用しやすくなる。
新技術を採用しにくい一因に、会計検査を例に挙げる人は少なくない。その点を考慮して、トライアル発注は県の単独事業で実施することにした。国の補助金を使わないので、事業の実施にあたって国のお伺いを立てる必要もなくなる。

●●トライアル発注は考えていた通りの成果を上げているか。
古川 トライアル発注を始める前に、担当者は「30件くらいの応募があれば成功ではないか」と言っていた。それが、実際には最初の募集で105件もの技術が集まった。
応募者の中には、「いままで設けていた開発のための補助金を減らしてもいいから、この制度を続けてほしい」と言う人もいた。実際、県では技術開発を支援するための補助金制度をこれまで設けていたが、この補助金を削減してトライアル発注の予算に充てている。ほかの自治体からの視察依頼も少なくない。制度に対する自信を深めている。

地元企業の優遇は窮余の策
●●新技術をトライアル発注で1度使うだけでは、実績を積むうえでの効果が少ないのでは。
古川 その点はまさに、これから考えねばならない。トライアル発注で採用した後に良好だと評価した技術は、県内で利用していくべきだ。募集回数を重ねることで、応募される技術は減ってくるだろう。無理して数を増やすのではなく、採用した技術の支援に力を入れていきたい。
●●地元企業を優遇する制度に対して、大手建設会社などからは批判の声も挙がっている。
古川 佐賀県では、トライアル発注と並行して、ローカル発注と呼ぶ地元の会社を優遇する制度を2〜4年間という期限付きで2003年度に導入した。本来は好ましくない制度だと思う。原則を曲げてまで地元を優遇するのは、かつてないほど地域経済が厳しい状況にあるからで、ローカル発注は地元の雇用を確保するための窮余の策だ。
地元企業の優遇だけが目的の方策は長く続けられない。長期的な視点でみれば、トライアル発注などを通じてほかにまねできない技術を育て、企業が自立できることが望ましい。