| 日刊工業新聞座談会(平成15年10月6日座談会、11月12日紙面掲載) | |
| 変革と創造の佐賀づくり | |
![]() 出席者佐賀県知事 古川 康氏 佐賀大学学長 長谷川 照氏 佐賀商工会議所会頭 指山 弘養氏 西村鉄工所会長 西村 仁一氏 ミゾタ社長 井田 出海氏 司会:日刊工業新聞社西部支社長 河野宏史 県のトライアル発注でその製品や企業の信用力アップ 古川氏 販路の確保、IT技術利用を総合するディレクターを 指山氏 環境関連に取り組む鉄工所5社のネットワーク「OSEN」 西村氏 製品開発の後の半分が大切。いかに売り込むか、商品に育てるか 井田氏 地域から研究テーマをもらうと面白いものができるかも 長谷川氏 「変革と創造の佐賀づくり」を掲げて県政のスタートを切った古川康新知事の誕生を機に、佐賀県に新しい風が吹き始めた。変革と創造に取り組んでいる企業群からは新しい技術や製品が次々に生み出されている。そんな県勢の変化を裏打ちするように佐賀大学は今年、伊万里市に海洋エネルギー研究センターの大規模研究施設を完成、海洋温度差発電を中心にした研究に拍車をかけた。さらに佐賀県は九州の交差点に位置する鳥栖市に世界でも数少ないシンクロトロン光応用研究施設を建設中で、04年度の供用開始を目指して着々と整備を進めている。そこで、古川知事と産業界、学界を代表する方々に出席いただき「変革と創造−佐賀でつくり、佐賀をつくる−」のテーマで座談会を開き、変革と創造の実現に向けて話し合っていただいた。 *** 佐賀県の現状についてお聞かせください。 古川 まず経済と雇用の問題から取り組むということで県民対話を始めた。雇用の場を確保するために緊急雇用創出基金を積極的に活用したり、無担保・無保証人の融資制度をつくったりしている。6月ぐらいからいくつかの会社から「忙しくなってきた」とか「人が足りない感じがするので残業させている」とか耳にするようになった。難しいのは、まだそれが県内経済全体を引っ張る力になっていないこと。そういうところもある、というまだら的な段階にとどまっている。 指山 佐賀県の特徴は県庁所在地に人口が集中していないこと。これはそれぞれの地域で暮らせる産業があるということだった。ところが西の地域が人口が減り気味で、東の方は増えている。ということは、長い不況の中で地域の産業、地域を支えてきた中小企業が少し元気がなくなっていると言えるのではないか。ちなみに開業率と廃業率は平成8年ぐらいまでは開業率が廃業率より高かった。年がたつに従って廃業率が開業率よりも高くなり、しかもその差が開いている。これまでは第一次産業の農業を中心とした加工業を含めた産業が佐賀の下支えをしてきた。ここは景気によって極端な影響が出るわけではないが、さすがに個人消費が落ちて影響を受け始めた。工業出荷高はほとんど誘致企業で県内の中小企業は少ない。 西村 わが社は全国的に製品を出しているので出した先の景気は敏感に分かるが、まだらだが景気の良いところが出始めたなという感覚はある。良い会社は良くなっていると言うのを遠慮しているところもある。 井田 夜明け前のやみが最も暗いという、今はそういう状況ではないか。大企業の業績も回復しつつあるようだ。トンネルの出口が見えだした、これ以上悪くならないだろうという安心感も出てきて、次の一手を考え始めた企業も多いと思う。愚痴や泣き言を言う時期は過ぎ、自ら歩み出す時だと思う。 *** 大学は独立行政法人化を控えています。 長谷川 景気の動きに対して、理工・農系はその動向を追いかけるように動いている。景気に少し明るさが見えてきたということだが、今大学は真っ暗な状況にある。医科大学との統合によるメリットを生かしながら大学をどのように変革し展望を開いてゆくか。このことが来年4月の法人化に向けての準備の中身だ。法人化後の大学には経営という新たな概念が導入される。国立大学法人の経営とは何を意味するのか難しいところだ。企業などとの関連で見ると、これまで大学側は教員それぞれが個人的な立場で連携なり協力してきたが、今後は組織的に対応する。経営の観点から研究者をどのような形でまとめるのが良いかが大きな問題となる。また、産業界に限らず県民、市民が何を大学に期待しているか調査する必要もある。地域との連携を強力に進めるシステムをまとめていきたい。 *** 知事になって打ち出したことをまとめると。 古川 1万人雇用創出計画は、私が選挙のマニフェストから一貫して1万人規模の雇用機会をつくると言ってきた。トライアル発注は佐賀県で採用したことがその製品や企業の信用力アップにつながるということで、まずは試すということ。開発した会社は私どもの意見を今後の製品作りに生かしてもらえれば競争力のある製品になる。 *** 佐賀県のモノづくりをどう見ていますか。 指山 良いものをまじめにコツコツとつくってきたのが佐賀県。しかし、それを売る宣伝にたけてなかったと思う。今は販売を支援する色んな仕組みがある。販路の確保では地域産業支援センターが機能している。ITを使った動きも出てきて単に国内だけでなくアジアとの間でIT技術をどう利用するかということも産学官で実験して仕組みができあがっている。それらを総合的に監修するディレクター的な人が出てくればと思う。 *** 産業界の方の県の政策についての意見や今の取り組みは。 西村 県内の環境に関する仕事をしている鉄工所が5社集まって、情報交換をやりながら共同開発や共同受注ができないかと試行錯誤している。それぞれが製品を持っていて有機的につながるんじゃないかと期待している。OSEN(オーセン)という名前にしてそれぞれの企業のネットワークを全部を結びつけた大きなネットワークにしようとしている。 井田 製品開発は山登りで言えば5合目。後の半分の、いかに売り込むか、商品に育てるかが企業にとって頭の痛い問題だ。トライアル発注は、そういう段階の品物を県が率先して買い、採用しようということで大いに勇気づけられる。技術開発への支援と同様の支援を営業販売の立ち上がり時期にやっていただくなら大変ありがたい。 西村 一部の官公庁は1年以上実績がないと納入できないと言う。最初の1年は自前でどこかに持って行って運転も自分でやって人員を常駐させて1年間データを取ってこいということ。でないと採用されない。それなら初めからやらないとあきらめてしまう。新規参入を拒む官と民の規制は問題だ。トライアル発注はもっと拡大してもらいたい、良い制度だ。 井田 すぐれた技術や商品を持っている企業は県内にも多い。ただ、どこにどう売るかというノウハウに欠けて、宝の持ち腐れになっているケースも多い。そんな苦戦している企業への手助け、いい呼び水になっていただくとありがたい。 *** モノづくりは人づくりでもあります。 長谷川 大学でモノづくりの中心は機械系、材料系の先生。個々の能力は大変優れていて、例えば機械システム工学科の先生は皆、学会賞など何らかの賞を受けている。海洋温度差発電は学問で言えば流体の分野であり、同じ研究室で行われている波力エネルギーの研究は世界的に認められている。金属疲労の研究、歯車の高精度設計、ロボットの開発など部分部分に優れた研究開発はあるが、企業的なセンスで全体をまとめることは難しい。工学と臨床、理学と基礎医学が結びつけばいろいろなことが出来そうだが、研究者の多くは自分のやっていることにしか興味がない。むしろ地域から卒業研究や博士課程の研究などでテーマをもらうと面白いものができるかもしれない。そうすれば人材育成の面からも地元とのつながりも良くなる。 トップランナーなしに産業の変革も創造もない 古川氏 大学を出たばかりの人たちが挑戦していく仕組みを 指山氏 経営というのは環境適応業みたいなもの、変わっていくのが客で変えていくのが社長の役目 西村氏 企業の大小よりも質の善しあしが論じられる時代になった 井田氏 連携の守備範囲が広がり、経済界への貢献が期待できる 長谷川氏 *** 産学連携も大きなテーマです。 古川 佐賀県は、もともと産と学が色んなことをやってきた県で、それにようやく時代が追い付いてきたのかなと思う。ただ、嫌なのは国が産学官連携で何かやろうというと、どこの県も同じような事業をやること。そして、国の予算がなくなるとやめてしまう。国が予算を付けても、わが県に必要のないものはする必要がないし、予算が付かなくても必要であればやればいい。必要かどうかが先にあって、国の予算が付くかどうか、と考えないと。地域主体を確認する必要がある。その中心が地域産業支援センターで、製造現場と大学の現場を飛び回る人がいると期待できる。 指山 佐賀大学は持っている技術を全部公開し始めた。これから佐賀大学に期待するのは、ほかとは違う研究をすること。そうすれば人が集まってくる。海洋温度差発電やシンクロトロンでは海外からも来る。大学の中にIT技術者を養成する講座をつくってほしい。連携は行政と一緒に我々も盛り上げていきたい。 *** 期待の大きい佐賀大学ですか。 長谷川 統合で医学部ができて、一応すべての学問分野がそろった。学問分野の多様な組み合わせと法人化による組織・運営の改革で連携の守備範囲は広がり、経済界への貢献が期待できる。ただ、規模が小さいために新しいことをしようとすると適切な人材を得るためにポストを空けなくてはならない。例えばシンクロトロンの世界に通じる専門家の確保で苦労している。人材面、財政面での連携強化が必要だ。 *** 産業界からは。 西村 佐賀大学と地場企業との交流というのはずいぶん歴史がある。昭和60年にテクノサンプラザという県内29社で異業種交流会をつくった。その翌年に、一般の人も入れて佐賀大学の先生との交流会と勉強会をやろうじゃないかと、昭和61年からハイテク研究会をスタートさせて現在も続いている。大学の主に理工学部と農学部の先生、民間は企業、市会議員、国会議員もメンバーで、毎月例会があって勉強会をやっている。さらに盛り上がって、62年にはみんなでお金を出そうじゃないかとメンバー以外にも呼びかけてお金つくって佐賀大学に寄付をした。一時期は大学に月2回行くという形で、先生方に民間の側を理解して頂くことに役立ったのではないかと自負している。 井田 佐賀は他の地方に比べて寄らば大樹の大企業がなかったので、独立自営の中小企業がたくさんある。それぞれが起業家魂を持って社長の判断一つで小回りがきく。このフットワークの良さは連携や異業種交流に大いにメリットとして働く。 *** 佐賀から変えるものづくりということで今後の取り組みや提言を。 古川 メーンプロダクトはいつの時代にも変わっている。その変化に対応していくこと息の長い企業を生むこと。佐賀は保守的と言われるが、それはある意味思い込みであって「おっとどっこい」という企業や常に新しいことに挑戦する人はたくさんいる。そういう人たちを支援していくという姿勢を掲げていきたい。行政はどうしても平等が求められるが、産業振興は平等ばかりではだめだと思う。引っ張っていったところが成功する、その成功をみてほかが追っかけていく。トップランナーなしには産業の変革も創造もなかろうと思う。経営者の方に新しく佐賀で何かことを起こそうという人になってもらって21世紀を担っていく産業創造を一緒にやっていきたい。 指山 これからのテーマは安全と安心でしょう。そういうところでどういうものづくりができるかという視点も大切だ。佐賀の場合、一番大きいのは農業。工業でも独特の技術を持ったところがたくさんある。生き残っている企業は変化している。社名と商品とが結びつかないところもたくさんある。それから若い人たちが挑戦して行く、特に大学を出たばかりの人たちが挑戦して行く仕組みをつくっていかなければいけない。そういうところで活性化して行ければと思っている。 長谷川 モノが豊かに得られるようになった。一方で「癒やし」という言葉が聞かれるようになってきた。芸術など文化の面にも力を入れていただきたい。芸術も科学技術の発展に無関係ではなく互いに影響を与えるもので、産業界とのつながりも出てくる。 西村 私のところは30年前のメーン製品は今は作ってない。完全に代替わりしている。経営というのは環境適応業みたいなもんでどんどん変わっていくのが客で変えていくのが社長の役目。どんどん変わっていったから今いられると思う。最近、もの作りを目指す人が少なくなっているのを憂慮している。小中高校で佐賀藩の歴史なり先端工業の歴史なりを取り入れてもらってもの作りの楽しさやすばらしさを教えてもらえる時間があれば、将来もの作りをする人が出てくると思う。 井田 この半世紀は大企業あるいは東京が中心となって全国をリードした。佐賀は都から遠くて小さいというだけでコンプレックスを感じていた。ここに来てその潮目が変わり、企業の大小よりも質の善しあしが論じられる時代になった。企業の本当の実力、真価が問われる。その意味では面白い時代になってきた。知事も若さと斬新(ざんしん)な発想で行動力を発揮しておられる。企業も地方からの斬新な切り口、ものの見方で、全国に、世界に乗り出して行けば展望が開けて行くんじゃないか。そのためには若い頭脳と力をどんどん登用する必要がある。 *** シンクロトロン光施設整備がいよいよです。 古川 いよいよ来年度には設置。今、ビームラインを使って頂ける企業に営業をかけたり、どういう運営の仕方にしていくかというところを詰めたりしているところ。施設をつくって終わりではない。どう使ってどう成果を出して頂くか。一番遅くできた分、一番使い勝手の良いものにしたい。つくったおかげで何か新しいものが生まれたというような、佐賀の21世紀の"反射炉"を目指していきたい。 *** ありがとうございました。 【メモ】 佐賀県 今年4月に古川知事就任。「佐賀県一万人雇用創出計画」をまとめて取り組む。県内中小企業の開発製品を試用して納入実績づくりに役立てるトライアル発注制度や事務用品や設計委託の県内企業への発注率を高めることなどを実施。佐賀藩は1850年に日本初とされる工業用反射炉を造った。 佐賀大学 今年10月に佐賀医科大学と統合。文化教育、経済、医、理工、農の5学部。特徴的研究組織に低平地研究センター、海洋エネルギー研究センター、海浜台地生物環境研究センター、シンクロトロン光応用研究センターなどがある。 佐賀商工会議所 会員数2650。有明佐賀空港の振興、市内の水路を生かしたまちづくり、経営革新・ベンチャー創業支援、IT社会対応、求人開拓などに取り組む。 西村鉄工所 コンベヤー、乾燥機、各種プラントメーカー。現在の主力は乾燥機で円盤を使うもののほかさまざまな乾燥方式のものを製品化、輸出も行っている。 ミゾタ 水門・ポンプメーカー。水道工事も手掛ける。浄水処理システムや自然エネルギーの提案も行う。西村鉄工所とともに佐賀土壌水質汚染問題研究会(OSEN)メンバー。 |