編集・発行:日経産業消費研究所
日経グローカル2006.1.23 44「知事が喝」
税源移譲の効果を実証 世論に訴え新分権改革へ
佐賀県知事 古川 康
各自治体で実績づくりを

昨年までの三位一体改革はいろいろあったが、国から地方への3兆円の税源移譲が実現し、結果は良しとしたい。補助金改革の中身は極めて不十分で、我々が登頂を目指した山の5合目くらいまでしか行き着けなかった。しかし、スタート地点を見下ろせば、結構登ったなとも言える。特に、財務省が理論的にあり得ないとしていた施設整備費が税源移譲の対象になったのは、今後の税源移譲に向けた大きな一歩になったと思う。
これからの課題は、昨年までに実現した改革によって行政がどう変わったのか、それぞれの自治体が成果を出していくことだ。税源移譲が実現した分、住民の期待に応える行政をしていこうという段階になった。例えば、今回、補助金が廃止され、地方の一般財源となった経済産業省の「小規模企業等活性化事業費補助金」には、中小企業に経営アドバイザーを派遣する制度があった。しかし、これまでは株式会社や有限会社であることが派遣の条件で、非営利組織(NPO)がコミュニティビジネスを行う場合には、対象から外れていた。しかし、地方の一般財源になるので、佐賀県では、NPOにも派遣できるようにする。定年退職時期を迎える団塊の世代の中には自分の持つ技術やノウハウをNPOで生かしたいという人も多い。そうした人たちの知恵を借りるためにも一般財源化は意味がある。
このように、国庫補助金の時代と違って便利になったという実績を積み重ねていかなくてはならない。そうした事例を集めて、一般財源化のメリットを訴え、国民世論を味方に付けていきたい。一般財源化されて自由に使えるようになった補助金はもともと小規模なものだから、取り組みも細かいものにならざるを得ないが。

国の過剰関与をなくせ

義務教育費国庫負担金は国の負担率が2分の1から3分の1に引き下げられるが、国の縛りは残ったままだ。ただ、政府の地方制度調査会から、教育委員会や農業委員会などの行政委員会を必置ではなく、選択制にすべきだという答申が出されている。また、国庫負担制度の堅持を答申した中央教育審議会も、教育行政の内容については分権を奨励している。都道府県、市町村が教育委員会を設置するかどうかを決めることこそ、まさに自治の根幹であり、こうした規制緩和と合わせて教育の分権を進めることができる。
義務教育のほか、補助制度の中で、国の過剰関与をいかに減らしていくかが大きな課題だ。ここ1、2年、地方の使い勝手を良くするという名目で、複数の補助金を統合した交付金化がはやったが、ふたを開けてみれば、実態は異なる。保育所の整備を対象とする補助金も交付金化されたが、交付を決定するのは厚生労働省であることに変わりはない。しかも待機児童がいる方が採択されやすく、来年度は待機児童が発生しそうなので予め定員を増やした準備のいい自治体には交付が認められにくい。努力が評価に結び付かない訳だ。
そもそも使い勝手を良くすることで対応しようという思想に限界がある。様々な個別の事情を抱える市町村のすべてを理解して交付金を仕組むことは不可能で、そうであれば、自治体が自由に使える一般財源にする方がすっきりするではないか。過剰関与によってどのような不都合が生じているのか、具体例を挙げて主張することも引き続きやっていきたい。
 
ほど良い官民の距離を考える

振り返れば、昨年は象徴的な年だった。「官から民へ」「国から地方へ」という“呪文”が日本を席巻したが、「官から民へ」に対するしっぺ返しが耐震偽装事件だった。何でもかんでも民間に任せればいいというものではないという教訓だったと思う。「国から地方へ」も、本来の国の仕事である児童扶養手当などが地方に押し付けられ、削減が決まった補助金のうち分権とは何の関係もないものが8割ほどを占めた。
自治体行政は対人サービスがメインなので、財政を切り詰めれば、切られる人が出てくる。私立高校に経済的に恵まれない子供も通っており、授業料を払えないと、卒業式で手渡された卒業証書を式が終わってから取り上げられたり、証書のコピーしか渡さない学校もある。
こういう状況が出てきていることをどう考えるか。「小さな政府」に固執し過ぎることの弊害も考慮しなくてはならない。官の効率の悪さ、杓子定規な面は民に近づける必要があるが、どこかにここまでという境界がある。一方、法に反しなければカネの力で何をしてもいいという企業も、あまり国民の支持を得られなかった。企業も社会的な存在であり、公共性を帯びているということだ。官と民の距離を近づけること、「ほど良さ」を今年のテーマにしたいと思っている。
我々は分権の第二期改革を目指しているが、その方法論については意見が分かれていくと思う。私は自治体の実績づくりや国の過剰関与問題を重視したい。それらをアピールしていく方が国民、住民に受け入れられやすいと考えるからだ。
竹中平蔵総務相の「地方分権21世紀ビジョン懇談会」、地方六団体の「新地方分権構想検討委員会」が発足した。6月の骨太方針まで、竹中ビジョン対地方ビジョンの対決という構図になれば、対立軸としては面白いのではないか。前者を市場原理主義的な新古典派経済学とすれば、後者は市場万能ではなく、“公”や“共同体”をしっかり位置づけるイメージか。自治体の破産法制をテーマのひとつに掲げるなど、仕掛け方は竹中総務相が一枚上だが、私はとにかく世間の人が関心を持ってくれることが望ましいと思う。

避けられぬ消費税増税論議 

今後は消費税増税の議論もしていかなければならない。来年度の国債発行は30兆円を下回るとはいえ、依然高水準で、赤字国債が24兆円を占める。これを歳出削減だけで解消できるはずがない。政治的に責任のある立場の人ほど、歳入を何とかしなければいけないと考えている。それを言わずにおくのは良くない。谷垣財務相も行革だけでなく、消費税増税に言及している。
私自身、今後とも精一杯の行革努力はするけれども、ある程度の負担増はやむを得ないことを説明していくつもりだ。次の消費税率アップの時に、地方が汗をかかず、批判を受けないでおいて、税率上昇分の一定割合をいただくというのでは筋が通らない。冷たい風にあたってこそ歳入の自治に道を開く。“もらう自治”に慣れているから、消費税増税反対の動きをする地方自治体も出るかもしれない。しかし「負担は少なく、サービスは多く」と説く調子のいい政治家を住民、国民は信用しない時代になった。 (談)