編集・発行:日経産業消費研究所
日経グローカル2005.9.19 No.36「知事が喝」
未来図わかりやすく 分権改革へ国民運動
佐賀県知事 古川 康
住民視点に立ち行動様式変える

地方分権改革は国や自治体の仕事を変えるだけでなく、仕事に携わっている人たちの意識を変える改革だ。市町村は県に頼り県は国に頼るという何十年と習い性になっていた行動様式を変える改革と言い換えてもいい。それによって一番得するのは国民・住民である。仕事の重複が無くなれば国も助かるはずだ。霞が関でいまだに「国と地方の陣取り合戦」と考える人がいるようだが、全く違う。われわれはあくまで、行政サービスに対する国民・住民の満足度を高める改革を目指している。そのためには現場に近いところで仕事している人が今起こっている物事を見て、判断し、住民ニーズから政策を組み立てる。そうした地方分権改革の実現のため、新たに「国民運動」を展開していくことにした。
住民一人ひとりに分権改革をもっと理解してもらう取り組みが必要だ。補助金を一般財源化すると住民サービスはこう変わるといういくつもの事例を具体的にわかりやすく示すべきではないか。このように考え、全国知事会の7月の会議で問題提起したところ、麻生渡会長(福岡県知事)の指示で地方分権推進特別委員会に国民運動小委員会を設け、私が小委員長を務めることになった。
佐賀県は早速8月、「未来予想図」を発表した。副題に「Dreams come true〜地方の"願い"がかなうとき〜」とうたった。実際に住民の要望が多く、現場の担当者も改善したいと願望している事柄について、分権改革が進んでいった時の姿を描いてみた。地方六団体が政府に提出した「国庫補助負担金等に関する改革案(2)」が実現した場合、佐賀県は行政サービスをこのように変えるという具体的な内容にした。いくつか紹介しよう。

もう国の都合で振り回されない

社会福祉施設整備の事例。ある民間の保育所が古くなった施設を建て替えようと年度内完成の計画で補助金を申請していたが、国の補助が2カ年事業になって半分は翌年度回しと通告され、仕方なく建設期間を翌年度にかかるように後にずらした。ところが年度末近くなって国から県庁へ「予算が確保できたので今年度まとめて満額出す」と突然の連絡。保育所経営者はいまさら工事を早めることもできず翻弄されたという話である。
国の補助事業では予算事情によって2カ年事業にされることもある。しかし、お金が余ったからといって付けられても、国は良かれと思っているのだろうが、この場合かえって迷惑。県の担当職員も困ってしまう。認可省庁がくれるという補助金を断るのは心理的抵抗があり、翌年度改めて付けてくれる保証も無い。「未来予想図」では「県に税源移譲されれば、県は予算措置する段階で実情を十分に把握するので、行政側の都合で突如変更することはありません」。
次も福祉関係だが、福祉に限らずよくある例。デイサービスセンターの方から「仕事や家事で夕方忙しい主婦たちが子どもを一時預かってほしいと言ってきている。デイサービスは4時ごろ終わり夕方は空いているので預かりたい」という相談があった。良い提案だ。しかし、国の補助金を使って「高齢者のために」作ったデイサービスセンターで、目的以外の使用は禁じられている。制度上ダメと言わざるを得ない。県職員はこの種の相談を現場の施設の方からよく受けるが、制度の説明をしながらそれでいいとは思っていない。おかしいと疑問を覚えない県職員がいれば、それこそ問題だ。「未来予想図」では「国の縦割りにとらわれず、地域のために施設の有効利用を進めます」とした。
 特に建物関係は1つのものを1つの目的で作ると無駄が多いように思う。少子高齢化時代、小学校は最初から高齢者や障害者が使える空間を備えた設計にするのもいいし、教室が空いた時にはいろいろ活用できるようにしたい。しかし、10年経過しなければ他に利用できない決まりになっている。なぜ9年ではダメで11年ならいいのか。こんな決まりがいかに意味無いか、気づくべきだ。

「制度が先にありき」から脱却

われわれは仕事の改革、意識改革を進める中で、制度が先にあって「だからダメだ」とか言うのでなく、国の人よりももっと現場に近いところにいる強味を発揮し、制度が現場に合っていて正しいかどうか自ら判断するという態度をしっかり身に付けようとしている。
2005年度から補助金が一般財源化されて県に移った結果、どんなに良くなったかを示す事例も「未来予想図」で示した。高校生に対する奨学金の貸与が県単独事業に変わった。国庫補助の当時は奨学金を受けられるという決定通知が届くのが8月で、9月に春からの分がまとめて支払われ、以後毎月支払われる仕組みだった。学生にとって物入りなのは特に年度始めだ。佐賀県では「あなたには奨学金が来ますよ」と早く知らせてあげようと、4月通知、5月から支払いに改めた。
児童福祉施設の職員がお産で休む時に代わりに雇う職員の雇用経費補助も一般財源化された。昨年度までは任用承認や補助金交付申請の書類を何度も提出して、しかも交付は年度末ぎりぎりだった。職員がいつお産するか、年度と関係ない。新年度入り早々に産休を取ることだって当然あり、代わりの職員を採用するためにお金を遣り繰りしなければならなかった。これが一般財源化されたので佐賀県は任用協議も申請書類も簡素化し、補助金交付は年4回実施することにした。
国という行政サービスの現場から遠いところで物事を決めると、必要以上に書類を要求し確認作業も手間取ることになるが、現場の近くで決めればニーズに合ったサービスがスムーズにできる。
国の補助制度が変わるとどうなるか、知事就任直後の2年前から調査し「プロポジション」と称して公表してきた。最初が大変だった。「何か問題点は無いか」と聞いても各担当職員は所管官庁ににらまれると思ってか、はっきり言わない。そこで以前に担当した業務分野について聞いてみたら「実はこんな疑問を感じていた」というのがぞろぞろ出てきた。今回、全国知事会で提案してからすぐに「未来予想図」を打ち出せたのは前段階の取り組みがあったからだ。

10月を「地方分権月間」に

地方分権改革を各界各層の人たちに理解してもらう「国民運動」について知事の皆さんの賛同を得た。各知事には親しいマスコミ人や有識者に積極的にアピールしたり、各県の広報メディアで分権改革をやさしく説明したりする活動をお願いしている。「未来予想図をわが県も作る」と言ってくれる知事も多く、心強い。秋にはまたヤマ場が訪れる。10月を「地方分権月間」と位置づけて各県が同時多発的にPR活動に取り組み、分権改革の火を再び燃え上がらせるつもりだ。   (談)