毎日新聞 佐賀特集 2004年11月11日掲載
いいモノはいい 正当な情報必要
なにがどういいんだ 具体的に明確に
古川知事の広告・PR感

古川康・佐賀県知事(46)は自治省(現総務省)時代、都道府県が新聞広告で全国にPRする全国地域情報発信事業に関係するなど広告に詳しい。長野県の課長に出向していた時には「現代信州の基礎知識Hamidas」という県内でベストセラーになった本の出版にもかかわった。眼鏡のフレームに「SAGA」と入れるなど「動く広告塔」としても活躍する知事に、新聞広告のあり方やPRの必要性などについて尋ねた。
(聞き手は関野弘・毎日新聞佐賀支局長)

古川 康(ふるかわ・やすし)
1958年7月15日、佐賀県唐津市生まれ。
東大法学部を卒業し、83年4月に自治省(現総務省入り)。
その後、沖縄、長野、岡山、長崎各県などでも勤務。
国連のPKO活動でカンボジアに派遣された経験も。
2003年1月に総務省を退職し、同4月の佐賀県知事選に出馬。
6人が争う激戦を制し、当時の全国最年少知事に。
1年目で県庁の組織改革を実現し、選挙戦で掲げたマニフェストの多くに着手するなど県政改革に務めている。
こさと夫人との間に3女。


古川知事の眼鏡のフレームには、右目に「SA」左目に「GA」の文字が。

熱弁をふるう古川知事。左は関野・毎日新聞佐賀支局長

モノに申し訳ない 価値をきちんと伝えないと

― まずは新聞に限らず、広告全般の必要性について知事のお考えを

知ってもらえないと判断していただけないし、選んでいただけないだけに、広告は大事です。特に佐賀の人は中身に自信があるので、知らない人は知らないでいいんだとこれまで言ってきたが、今の時代は「いいモノはいい」とアピールしていくべき。モノが持っている価値を正当に評価されるためにも、広告は必要です。
いいモノを持っているのに宣伝ができていないから知られていませんというのでは、モノに対して申し訳ない。正当な評価を得るには、ふんわりとしたイメージで売っていくよりは、何がどういいんだということをきちんと説明していくことが求められている。その意味で読ませる広告、媒体というのは重要だと思っています。

東京発信情報はいっぱいだが・・・

― 自治省時代に、新聞で都道府県のPRをする全国地域情報発信事業にかかわったとか

事業をやれやれ、と言ってきました。堺屋太一さん(元経済企画庁長官)や若手の役人連中と議論する機会があって、地方のことは事件や災害しかニュースにならないという話になった。
東京から下る情報はいっぱい入ってくるが、上り情報は極めて限られている。東京から発せられる情報の持つ力を極端に過大に見ているのではないか、という議論の中でこの事業の話が出て、大いにやるべきだという話になりました。

「来てください」それだけでは

― この事業で昨年、佐賀県が出した広告には不満があるようですね

何を言おうとしているのかが明確ではない。本当に武雄温泉や吉野ヶ里に来てほしいと思って広告を作っているのかと思う。予算があるし、コンペをやったらこんなものが出てきたという感じ。この広告を見て、行ってみようという気持ちになるのかなあ。地域情報発信事業は観光宣伝のために作ったのではないんです。
例えば「佐賀県はなぜBSE(牛海面状脳症)の全頭検査を続けるようになったのか」とか「有明海の再生のため佐賀県はこう考えます」など意見広告的なものを出してもいいと思うんです。スペースの使い方は縦横無尽。他の地域の人に無理やり見てもらうわけですから、単に「佐賀県に来て下さい」でいいのかと考えます。今の新聞広告が持っている力、魅力というものを我々はまだ十分に理解し切っていない。これからより良い紙面の使い方、より良い事業効果の発現の仕方というのが出てくると思うので、それに期待したい。

「住みたい県日本一」 県民の満足度が重要

― 佐賀県に来て下さいというだけでなく、佐賀県はこんな所だと県外にアピールしたいということですか

もっと佐賀県政府としてのメッセージがあっていい。
例えば県の観光には一銭にもならないけれど、「佐賀県の考える三位一体の改革はこうだ」と訴えてもいいですよ。それはダメというものは何もない。
昨年、武雄温泉と吉野ヶ里をやったから、今年は○○をやろうというものではない。今年の一回目は8月の県立佐賀城本丸歴史館のオープンに合わせて出しました。「アジアのハリウッド構想」をやろうかという話もあったんですが、まだ形ができていないので私が止めたんです。イメージ広告じゃないですよ、この紙面は。アジアのハリウッド構想をやるんであれば、こんなイベントや映画祭をやるとか、こんな募集をするとか具体的に書いて、ホームページにアクセスしたり、電話をかけたくなるようなものにしないともったいない。

― 最初、この事業にかかわった時の思いとはちょっと違っているわけですね

そうですね。かつて山口県が「東京卒業」というメッセージを発したことがあった。あれは非常に意味があったと思う。観光地を取り上げるのではなく、山口県出身者に対して「もう山口へ帰っておいでよ」と"東京卒業"を語りかけていた。私たちがやるのであれば、佐賀県に興味を持っている人や佐賀県出身者にメッセージを発信することでもいいが、何らかの明確な意図が必要。ただの予算消化事業であってはいけません。

― 井本前知事が言っていた県のイメージ「住みたい県日本一」は今後も継承しますか

「住みたい県日本一」というのはすごいキャッチフレーズです。私も今までいくつもの県に勤めましたが、これほど県のキャッチフレーズを知っている県民はいないですよ。ただ「住みたい県日本一」は誰に対して言っているのかよく分からない。日本国民に「あなたはどこに住みたいですか」と調査して「佐賀県」の答えが一番多くなるような県を目指すというわけでもないでしょう。私は佐賀県に住んでいる人が満足してくれればそれでいい。満足度を日本一にすることはできると思って、「満足度日本一」をキャッチフレーズにしています。
佐賀県にとって何が必要かという県民意識調査を見ると、「佐賀県のイメージアップ」というのを多くが挙げて、正直「へぇ〜」という思いです。

― それこそ、PRの必要性を感じますね

そうですね。今、県ではイメージアップではなくブランド戦略と言っている。私たちがやろうとしているブランド化に沿った商品の提供をどうしていくか。全体的なブランド戦略の中で、新聞の地域情報発信事業もやっていかなければならない。その意味でも明確なメッセージを発信することが必要です。例えば、「佐賀牛」と名を付けられる牛は全体の出荷量の10%ちょっとだから、佐賀牛と名の付いた肉は自信を持っておいしいと言える。実は、ブランド化は所帯が小さいほどやりやすい。図体が大きいところはそんな戦略は取りにくいんですね。佐賀県はその点は強い。時代に応じて方向転換できる身軽さを強みにできます。

昨年の全国地域情報発信事業で使われた佐賀県の広告を手に話す古川知事

「量は他県、質は本県」など

ブランド戦略展開へ

― 収穫量が全国2位のタマネギや大豆などもブランド化を?

エベレストの次に高い山はK2ですが、あまり知られていませんね。佐賀県は二番が結構多いが、二番にふさわしい戦略もイメージも情報発信もできてない。
タマネギが二番といっても、みんな一番の北海道のイメージしかない。量は北海道が圧倒的に多い。量で稼ぐ北海道、質で稼ぐ佐賀県というような感じで、佐賀県という言葉が発せられた時には高級品質感が伴うようなやり方も手ですね。ビッグではないけれど、グッドというような戦略はありえるでしょう。

― 先日、相知町の蕨野(わらびの)の棚田に行ってきましたが、あそこのブランド米はすごい高値で売れています

あれは見事です。農業が大事、棚田が大事と掛け声を発するだけでは生活はできない。きちんとしたブランド化によって高い評価を得ることにより、消費者に高い値段で買っていただける。買った都会の消費者も自分たちが棚田の農業を守っていることを何となく思っていただけるのでは。実は蕨野(わらびの)のブランド米は、あの棚田で獲れている米の何割かしか出ていません。ある一定の量以上獲れた場合は農協に出して、一般の米と一緒の値段で売られているのはちょっともったいないですね。

― 観光資源もいろいろあるのに、県外へのPRが不足しているのももったいない

満足度調査でも県民の44%が「まあ満足している」と答えるなど、満足度は高くてあまり困っていない。もっと困っていれば何かやるけれど、これは佐賀県の豊かさを表しているのでは。
私も昨年、県外から帰ってきましたが、もったいないと思う。「佐賀の七賢人」という言葉があるけれど、あれも作られた言葉。言われ始めたのは最近で、教科書の副読本に青年会議所が作って広まったんですから。ようやく七賢人についても、見て「ほう」と思われる場所ができてきた。
理念的に「いいんだ」と言われてもピンとこなかったところが、当時のすごさが分かるようになってきました。よく佐賀県には素材はあるけど磨き上げられていないと言われるけど、それはある意味で罪なこと。先祖先輩から受け継いでいることを生かせないのは怠慢というしかない。我々が誇りにしていることはきちんと「誇りにしている」と言うことが必要です。多くの人に先人の偉大さを知ってほしい。知ればみんな誇りに思うでしょう。

― 長野県の課長時代には県内の面白い話をまとめた本を作って話題を呼びました

信州の場合は観光情報と歴史情報はいっぱいあります。観光客向けのガイドブックはあっても、観光地には生活情報が欠けています。生活実感から出ている面白い話やよくある話をまとめたものがなかった。
県民として見て、県外へ出て飲み会の話題にするのにちょうどいいネタを集めたんですね。例えば信州では冬の体育の授業はスキーかスケート。スケートをする時、スケートリンクはないので仕切りを作って校庭に水をまくわけです。だんだん日が高くなってくると氷が溶けてくる。だから冬の体育の授業は午前中なんです。そういう話はみんなが思い出して「そうだった」と言い合い、県外で話をするとうけるわけです。そうすることで地域を見直したり、誇りに感じることにつながると思いました。あの本は県内のベストセラー1位にもなり、うまく成功したと思います。あの手のことが佐賀でもできないかと思います。

素材吟味が肝心要   県の情報発信なお一層

― 佐賀県のホームページの「佐賀のへぇ〜情報」は面白い。あれを本にまとめてはどうですか

今ごろ「へぇ〜」かと言う人がいるでしょうから、タイトルを替えなければいけないでしょうけど。
みんなが感じている情報をまとめると面白い。典型的な例を言うと、佐賀市の人は方向を言う時に東西南北で話す。小学校の運動会でも「次のリレーで選手は西から東へ走ります」とアナウンスがある。こんなのはいいネタになるだろう。ノリの種付けが始まった時も、ひと段落すると漁民は海の上で白と黒でお祝いするんです。白は酒で、まず海にまいた後に酒盛りする。黒はボタもち。「ノリがこんな黒い色になるように」と祈願し、酒を飲んだ後に食べる。面白いネタはその辺にいっぱいころがっているんです。

― 県民向けの広報誌「県民だより」に対し、県外向けには季刊「佐賀」Zanzaがある

県外にいる時からZanzaは送ってもらっていましたが、質は高いと思います。ただ読み終わった後に忘れてしまうんですね。もうちょっとインパクトがあった方がいいと思いますが県が出している雑誌だから一歩f踏み込みが甘いところがあるかなあと。特定の店の名前だけを出すわけにはいきませんし、常に抑制の利いた文体で主張もできないというところが、情報に飢えた人が見たら物足りなさが残ってしまうのでは。

― 三位一体の改革の影響で県の財政が厳しい中、今後の地域情報発事業はどうなりますか

県の予算はカットされて85%ぐらいになる。この事業がどれだけ続けられるかは統括本部の中で議論してもらうことになるが、私は佐賀県の情報発信は行われなければならないと思っているので、この事業は非常に大事。この事業に何を入れるのか、何を主張するか、何を伝えるのか、どういう反応がほしいのかを詰めて考える必要がある。多額のお金がかかる以上、それなりの効果を期待してやってもらわなければいけない。

― 知事自身もホームページでPRをしています。自己PRも必要?

今の時代の知事像は県民の代表者だと思う。私は県民に対してこういう考え方で県政を進めているということの説明を、やったほうがいいというより、やらなければならないと思う。説明責任があります。意見を聞くのも大事ですが、それをそしゃくして判定していかなければならないのが知事の仕事。
知事は知る事と書くように、知る事も仕事だが、知らせる事も仕事です。

新聞広告 検索機能も充実を

― 新聞広告に対して注文があれば

ネット上の記事検索は充実していたが、広告はまだまだ。以前の広告を見ようとしても探し出せない。
知事としていうべきことかどうか分かりませんが、1ユーザーとして、新聞広告をよく見るものとして、広告の検索機能も充実してほしいですね。

― 21世紀も新聞広告は不滅でしょうか

22世紀も不滅、じゃないですかね。新聞広告に求められるところは信頼感。
携帯電話やインターネットなど広告の情報量は増えていますが、玉石混交の情報が入り乱れている中で、新聞協会に加盟しているような新聞に載っている広告は信頼したいと思う。犯罪めいたものは絶対にクリアされているだろうと。この期待に応えていってほしいですね。