| 日本経済新聞 2004年8月16日掲載 | |||||||||
| 第8回シンポジウム大阪 公会計改革会議2004 テーマ 地域経営における競争優位戦略を考える |
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| パネルディスカッションT 新しい地域経営とブランド戦略と求められる行政の経営品質
司会 地域経営にかかわる取り組みからまずお伺いする。 古川 私は、常に「きまり」との戦いということを言っている。この「きまり」が、なぜそうなっているのかを説明できないような決まりは、ろくな決まりじゃない。 去年の三月末、私の選挙の真っ最中に、ある町で菜の花フェスティバルというイベントがあったが、春の訪れが遅く、菜の花があまり咲いてない。一週間ぐらい延ばせば満開になるのはわかっているのだが、そうすると四月に入って会計年度が変わり、県の補助金をもらっている事業だからできないという。それはおかしいので、私が知事になったら、仕組みを変えると、その場で約束した。知事になって実際に変えるのは簡単で、補助金を、明許繰越という仕組みを取って繰り越せば済んだ。 去年の秋から、繰り越す必要があるものは繰り越していいように仕組みを変えた。仕組みや制度が優先して実態に合わないものをどう正していくかが自治体に求められている。 ブレア 弊社は世界中の都市、地域、国々でブランドの再構築のプロジェクトを手がけ、投資誘致を支援してきた。麻薬と犯罪の街というニューヨークのネガティブなイメージを払拭するために「I love NY」キャンペーンを二十五年前に実施し、今でも世界中で強いブランド力を持つ。 弊社の創設者デビッド・オグルヴィは一九五五年、「ブランドは複雑なシンボルである。それは、商品の属性、名称、パッケージング、価格、歴史、評判、そして広告手法の目に見えない集合体である。ブランドは、またそれを使用する人の印象と、その人自身の経験により定義される」と説明し、初めてブランドイメージという言葉をつくり出した。 御園 昨年の十月に地域再生本部をつくった。「構造改革特区」は全国一律の規制を地域限定で緩和する目的でつくったが、規制緩和だけじゃなく、権限の移譲や国から流れてくる金の使い方を変えてくれといった地域からの幅広い注文に応える窓口としてつくったのが地域再生の仕組みだ。メインは、地域の意思決定の裁量性の拡大だ。支援措置として例えば、生徒が減って廃校になる小学校を福祉の施設に使いたいという場合、補助金を返さなくてもすむよう、有効活用を認める応援システムをつくった。国庫補助金も、使い勝手が悪く、手続きも煩雑なものを、地域の要望に応じたオーダーメイドなものに変えられるようにしたい。 梶井 専門は経済理論で、ゲーム理論もその一つ。ゲームの勉強かと思われるが、そうではない。多様な利害関係のある人たちが、自分の利益を追求することを、あたかもゲームをしているように考える。そういう環境をゲームとして分析することにより、経済社会のさまざまな分野でのインプリケーションを探そうという学問だ。 自治体の運営にも当然生かされるべきだが、自治体がゲームのプレイヤー、地域経済の最大のプレイヤーであるとは、あまり認識されていない。地域の大きなプレイヤーだということは、国の中でも有力なプレイヤーだから、ほかの自治体との競争関係や戦略関係が重要になる。自治体は地域の市場支配力があり、法律をつくって規制し、人の動きをコントロールできるわけだから、それを認識しつつ、活動しなければいけない。 古川 県政の目標は県民満足度を最大にしていこうということ。県民満足度の調査で意外だったのは、身の回りの環境を含めて整備してほしいもので一番多いのが街路灯の整備だった。今ある街路灯は、商店街や、地元の人たちが自治会でお金を出し合って設置している。基本的に県の仕事ではなく、所管部署もないが、何とかしてほしいと県民が思っているのだから来年に向けた検討を指示した。行政が問題と思っていないことでも県民には大きな問題だということが多くあると改めて感じた。 高齢者福祉でも最も期待が大きいのは、年金ではなく、働く場をつくってほしいということだった。そういうズレを正していきたい。 地域経済に与える影響という点で、実践している例にトライアル発注がある。行政は新しい事業をしたり、発注・調達したりする際に、企業側の実績を問題にする。ベンチャー支援といっても、企業が新しい商品を持ってくると、「まずどこかで実績を作ってください」と及び腰になる。それでは無責任なので、県内企業が開発した製品を実績がなくても県庁が試しに使ってみようと、去年から始めた。 もう一つの柱が、満足度の中にある「自信」とか「期待」とかの心の部分。自治体はある一定の地域という広がりの取りまとめ役でもある。高校野球で自分の県の高校を応援したりする地域を思う気持ち。そうしたものを自然に発露できれば、満足度につながる。 御園 中小企業の町、東大阪市は地域の経営戦略として、工場誘致をし、もう一度物づくりの町として飛躍し、税収増で自治体経営をしていこうという明確なビジョンを設定した。工場誘致も信託銀行や宅建業界に成功報酬を払ってやってもらうというように委託するなど、自分たちの生きていく方向を明確に打ち出している。 重要港湾を持つ北九州市は通り一遍のポートセールスではだめだということで、特区を使って、二十四時間の通関体制を実施し、通関手数料も半分にして、ほかの港湾と差別化した。電力供給の特例も入れて安い電力を供給し、北九州港湾のブランド化を図っている。そういう特色ある活動のお手伝いをするのが地域再生だと思う。 梶井 よく先読みという言葉が使われるが、それは戦略的に考えることの基本だ。物事をうまくやろうと思ったら、まず将来のビジョンを考え、そこに向かってどうやるかを考える。しかし、実際は逆で、今から考えて、将来の方向に伸ばしていってしまう。例えば、道路を整備する場合は、相手は自動車を使う利用者などだから、運転者の都合から考えて、ビジョンを立てるのが正しい方法だ。 コミットメントも重要だ。これは自分の行動を縛ることで、不自由な感じだが、態度を決めずに先送りすることがデメリットになることも多い。自転車が細い道をすれ違う際も右か左かに早めに寄るのが最適で、先送りしてお互いに突き進むと危ない。早く自分の行動を決めて、相手に教えることの効果を認識すべきだ。 いろんないいことをやっても、それを相手に伝えなければ意味がない。情報を見る立場がその情報を見て、どう考えるのかを戦略的に考えて、それに応じて情報を出す必要がある。 司会 ブランディングはどういう意味を持つのか。 ブレア 私が見いだしたブランディングの九つの法則は、まず、成功のブランドはその規模、雰囲気において国際的であること。それから、体験に価値を付加する。顧客と多角的なつながりを保持する。一貫したスタイルとバリューを持っている。マーケティングミックスにおいて一貫性を保つ。新鮮で時世に合うルックスとフィーリングを持っている。消費者の気持ちを高揚させる。リーダーシップを持って何かを象徴している。消費者と相互的に対話することで、リクエストを満たし、学習することで今後のコミュニケーション方法を改善するという九つの原則だ。 ブランディングとは、投資意欲を引き出すものなのだ。 オグルヴィでは、地元の人が理解できる明確なビジョンを掲げ、彼らのハートをつかむ、明瞭かつ、一貫したメッセージを持つなど、七つの基本的な方策をアドバイスしている。 古川 佐賀県では、四月から「佐賀県」という名前がネット上や、メディアの世界でどのように使われているかをチェックする担当者を配置し、事実関係の誤認がある場合には、きちんとそれを伝え、佐賀県という言葉が私たちが望むシチュエーションの中で使われるようにするための仕掛けを始めている。 司会 特区も含め、自治体はこれからどうすべきか。 御園 自主自立の精神で、それぞれの地方団体が自分たちの特性を見る、いわゆるブランディングを意識して自治体経営をし、輝いてもらいたい。 梶井 ブランド化、差別化が大切だ。一定のパイを仲良く分けるのではなく、自治体競争によって効率性を高め、全体のパイも大きくしようということだ。自分の特色を出し、自分のところの顧客をつくっていくというタイプの競争をしていかなければいけない。 司会 キーワードを一言ずつ。 古川 「品質」の二文字に尽きる。行政も経営品質みたいなものを問われる時代になっている、地域自体も品質が問われている。 御園 地域間の競争。それぞれが切磋琢磨し、それぞれの地方団体が生まれ変わっていってもらいたい、それが地域再生。 梶井 戦略、あるいは戦略的な考え方。相手のことを考えながら自分の戦略を練っていく。そういう思考方法が重要になる。 ブレア 皆さんのビジョン追求のためのスローガンをあげてみよう。「既に所有しているものを有効活用し、確実に成果を上げる」。 まずは、明確なビジョンを持つことだ。 【パネリスト】 古川 康(ふるかわ やすし) 一九五八年生まれ。八二年東京大学法学部卒。自治大臣秘書官、長崎県総務部長などを経て、二〇〇三年より現職。 梶井 厚志(かじい あつし) 一九六三年生まれ。八六年一橋大学経済学部卒。九一年ハーバード大学大学院修了。大阪大学社会経済研究所教授などを経て、二〇〇三年より現職。 御園慎一郎(みその しんいちろう) 一九五三年生まれ。七七年東京大学法学部卒。愛知県総務部長、総務省自治財政局財務調査課長などを経て、二〇〇三年より現職。 マーク・ブレア(Mark Blair) 一九六三年生まれ。八五年英ケンブリッジ大学卒。オグルヴィ&メイザー グループのアジア・パシフィック(香港)のリージョナル・プランニング・ディレクター、ジャパンオフィスのマネージング・ディレクターなどを経て、二〇〇三年より現職。 【司会(コーディネーター)】 浅田 和幸(あさだ かずゆき) 日経産業消費研究所 事務局次長 ※敬称略 |