| 月刊官界 2004年 February 新春号 掲載 | |
| 随想 | |
![]() 去年の1月25日に公務員を辞めた。 勤続21年目だったから、まだ退職の二文字が目の前にぶらさがっているということもなかったので、退職について何も調べてなかったし、相談することもできなかった。 辞めた理由は知事選出馬のためだった。 政治活動をはじめるとすると金がかかる。 ある先輩に「お金はどうしたらいいのでしょうか?」とたずねたら、「銀行から借りておけばいいよ。貸してくれるから」と言われ、まあそういうものかと信じていた。 ところが、いざ金を借りようとしたら、あたりまえのことだが、担保を要求された。 そんなものがあるなら悩みはしない。 「銀行は無職の人間には貸してくれません」といえばあたりまえのことだが、それをしみじみと感じた。 結局、ないものはないわけで、退職金と簡易保険をすべて差し出して政治活動をしたけれど。 だから、そういう蓄えのない人は、公務員のうちにお金を借りておくことである。 公務員であれば、担保とかなんとか言わずに貸してくれる。 「まずお金を借りて辞めなさい」あんまり言うとまずいか。 政治活動をスタートさせた直後、スーツを作った。 どうせならそのお店の会員カードを作って、クレジット払いにしようと思って申し込んだ。 ところが職業は「無職」。まことに残念ですが、と断られた。こういうみじめな気持ちも選挙のばねになる。 また、この『官界』もそうだが、『プレジデント』とか、『世界週報』とか、これまでただ手に入っていたものが入らなくなる。これもばかにならない。 もちろん図書館にはあるが、最新号は持ち出し不可能。ネットでずいぶん拾えるようにはなっているのだが、政治活動をはじめるとそういう検索する時間がもったいなくなる。 お役人というか組織人のなんとありがたいことか。 たとえば、役人を辞めたら健康保険はどうなるかご存知か?僕は当然国民健康保険になるものと思っていて国家公務員共済組合の任意継続という形があるということは知らなかった。 結局、少しだけ保険料が安くなるというので任意継続にしたのだが、それでも毎月の保険料はたしか3万円を超えていたと思う。 「これだけかかるの?病院に行かないようにするから、入らないわけにはいかないの?」仕事のあてのない状態になってしまっている家計を預かる身としてはあたりまえだろうが、連れ合いはそう言った。 「国民皆保険の制度を進めてきた政府の人間がそういうことをしてはいけない」と、任意継続の保険料を払ったが、選挙の最後のころに家族が病気にかかってしまい、やはり保険証があって助かった。 ちなみに知事になってみたら一般職員と同じ地方公務員共済組合だった。 知事になって、今でも困っているもののひとつに職業欄問題がある。 「公務員」の欄に○をするのか「その他」のところに印をつけるのかということだ。 最初から職業の欄に首長がある調査やアンケートなどの場合はそこに○をつければいいけど、普通にものはそうはなっていない。だからといって「その他」のところにわざわざ「知事」って書くのもなあ、とちょっとだけ気がひける。 他の知事の方々はどうされておられるのだろうか? 勤務先問題というのもある。勤務先はどこと書くべきかということだ。 「佐賀県庁」と書くべきなのだろうが少し悩んでしまう。勤務先が県庁であるのは事実なので、否定はしないが、そうなると、なんとなく、自分が佐賀県庁だけを代表しているような感じになってしまうのだ。 「勤務先は佐賀県庁」といえばそのとおりなのだが、自分の気持ちとしては、県庁の責任者であると同時に、県民の代表として、県庁の仕事を進めたり、止めたりしながら県庁の仕事をチェックする機能もあると思っていて、そういう思いで見てみると「佐賀県庁」ではなく、勤務先は「佐賀県」と書きたい気分なのである。 もちろん、そうしたこともある。 あるビデオ屋で会員証を作るときのことだ。勤務先に「佐賀県」と書いたところ、店員さんから「佐賀県のどこですか?」と言われてしまい、ちょっと困っていたら、店員さんが僕の顔をあらためて見て「知事さんですよね。だったら県庁ですよねえ」と言って、「庁」の字を書き加えられてしまった。 思いを伝えるというのはかくも難しいものなのである。 県庁ではなく知事公舎で勤務することを常とする知事さんもいらっしゃると思うし。 そういえば私がお世話になっていたころの長野県では予算査定はいつも知事公舎だった。 知事公舎といえば、いま住んでいるこの公舎も相当の年代モノ。日清戦争以前のものだけに相当痛んでいる。 また、車寄せが異様に小さいのだが、これは当時馬車を使う前提となっていたからで、いまでも自動車は入らない。 建物は傾いているのだが、県自身も傾きかけているので、まずはそっちが先。こっちのほうはこのまま何もないことをひたすら祈るばかりである。 |