日本経済新聞「交遊抄」2004年12月17日掲載
「犬とクリスマス」

クリスマスが近づくと恒遠先輩を思い出す。僕は東大、恒遠さんは慶大のボート部出身だ。

1980年に東大がボートの世界選手権に出場し、僕はマネージャーとして渡欧した。そのときパイロット万年筆(現パイロットコーポレーション)のヨーロッパ支社長としてハンブルクにおられ、お世話になったのが恒遠さんだった。

翌年の冬、僕は自治省入省が内定し学生時代最後の旅行でハンブルクのお宅にご厄介になった。「来年どこかの県に行くことになる」という話をしたところ「沖縄がいいよ」とおっしゃるので、翌日僕はハンブルクから自治省に手紙を書いた。念願かなって翌年、僕は沖縄県へ。本当によかった。

奥さんの博子さんもすてきな方だ。「この人ったら、このあいだ犬を見いて『犬はこうするといやがるんだよ』と両手を振りかざすマネをしたの。そしたら犬がホントに怒っちゃって、足をがぶり!」。楽しそうにそんな話をしておられた。

季節はちょうど今ごろ。きれいに飾り付けられた家々に積もった雪を眺めながら、いい話だな、と思いつつ聴いていた。恒遠さんはその後パイロットの社長をされ、先年亡くなられた。生前いただいた蒔絵の万年筆は今も僕の執務室の机の上にある。