季刊「ミーティング・ビジネス」第8号(2004年10月号)掲載
発行:株式会社ジェイティービー
「新しい佐賀県の売り方、ほめ方、見方をつくっていく」として若さと行動力で佐賀県の変革に取り組む古川康佐賀県知事。県政2年目に入り、これからの佐賀県のイメージ、姿をいかに描いていくのか?
また、佐賀県の存在感をどう打ち出し、新しい佐賀県をいかに発信していくのか?「佐賀県」ブランド確立に向けた取り組みと戦略を解説いただくとともに、地域イメージ戦略とも密接に関わる観光コンベンション振興に向けた課題と将来像について伺う。

古川 康(ふるかわ・やすし)
1958年7月、佐賀県唐津市生まれ。82年4月自治省入省、財政局指導課。同年7月、沖縄県総務部地方課勤務。以後、長野県企画局企画課長、岡山県総務部財政課長、自治大臣秘書官、長崎県商工労働部長等を経て、2003(平成15)年1月、長崎県および総務省を退職。「働き盛りのうちに、佐賀県に帰って故郷のために力を尽くしたい」と県知事選に出馬。新人候補者6人という異例の激戦に勝利し、同年4月、佐賀県知事就任。
就任直後から「知事とかたろうかい」をスタート、1年間で県内49の全市町村を回り、県民との直接対話集会を開く。今年4月、県庁組織を6本部制に改組、本部長に一部の権限を移譲するとともに、職員が本来の能力を最大限に発揮できるようなコンピテンシーモデルづくりに全国の自治体として初めて本格的に取り組んでいる。
現在、デジタルコンテンツ産業の育成を図る「アジアのハリウッド構想」、子どもたちが郷土を学ぶ教育プログラム「オンリーワンの佐賀体験活動」、「22世紀に残す佐賀県遺産(仮称)」など精力的に推進中。


「佐賀県」の品質感を大事に
佐賀県の人はよく「佐賀県には何もない」と言いますが、そんなことはありません。
佐賀県には世界的に有名な陶磁器ブランドの有田、伊万里をはじめ、いいもの、すばらしいものがたくさんあります。でも、それを声高に言わないのが佐賀県人の気質です。優れた素材があっても、なかなか「みんなに見てもらおう」という形にならないし、佐賀県のトータルなイメージにもつながっていきません。
昨年、佐賀県知事に就任するまで29年間、県を離れていたので、「古川知事は佐賀県のことは何もわからない」と批判する人もいました。しかし、山の中にいると山の姿が見えないように、外から見たときに初めてわかることもあります。国という仕事場から見ていた時期もありましたし、隣の長崎など他県から見ていた時期もありました。外から見ながら、佐賀県にはこんなにいい資源がある、こうすればもっと形がよくなるという自分なりの思いは常に持っていました。
その一つが「佐賀県という名前をもっと大事にしよう」ということです。何でも佐賀県の名前を出せばいいというのではなく、「佐賀県」という言葉に一定の品質感が伴うような露出の仕方をしていこうという戦略です。
佐賀県は全国有数の海苔の生産地で、特に有明産の高級海苔は有名です。最近、中国産の海苔と食べ比べる機会がありました。中国産は見た目は劣るものの、佐賀県産のボリュームゾーンと味はほとんど同じレベルです。しかも、価格は佐賀県産の3分の1から4分の1にすぎません。現在は国が海苔の輸入制限をしていますが、両国ともWTO加盟国ですから、輸入解禁は時間の問題だと思います。中国産の安い海苔が日本に入ってくるようになったら、佐賀県の海苔は価格ではなく、品質で勝負しなければ生き残っていけないのです。こういう話を有明漁連ですると、「知事が気に入るような高級海苔は全体の5%しかありませんよ」と反論されます。しかし、5%を10%、15%に伸ばしていって、売上金額の半分を占めるくらいにしなければ、中国産に負けてしまうのは目に見えています。
    
佐賀県は全国有数の海苔の産地。佐賀県有明産の高級海苔は、有名な高級寿司店で使われている。
東京の銀座や築地の有名な高級寿司店には、佐賀県産の海苔しか使わない店が何件もあります。たとえば、お客さんが海苔をほめたら、お店の人が「これは佐賀県産なんですよ」と教えてくれる。こういう形で佐賀県という名前が使われていけば、「佐賀県」という言葉のブランド価値は高まります。だから、「あまり安い海苔に佐賀県産とつけずに『有明海の海苔』でいい」と言っているんです。ワインも例えば「ブルゴーニュ」と広域の地名がついているものより、畑の場所が絞り込まれるほど品質は確かなものになるのはご存知のとおりです。望ましい方向に佐賀県の名前が使われていくように、しっかりブランド管理をしていくことが大切となります。
それから、県全体のことを言うときは「佐賀」ではなく、「佐賀県」を使おうと提唱しています。県内や近県では「佐賀」だけだと、県なのか、県庁所在地の佐賀市なのかわかりません。そして、県内の厳選したいいものに「佐賀県」を使ってもらうようにすれば、「佐賀県ブランド」のイメージが確立していくのではないかと考えています。

県北を福岡の奥座敷に
青々とした玄界灘にそって5kmもの松の群生が続く名勝虹の松原
これから佐賀県の観光資源も整備していかなくてはなりません。お隣の福岡や長崎からは気軽に来てもらえる距離ですし、アフターコンベンションにも最適な日帰りで楽しんでもらえるスポットがたくさんあります。2005年度末に福岡から唐津方面まで高速道路が開通するのに合わせて、近場のお客さまに喜んでもらえる受け入れ体制の充実やPRの強化を図っていこうと考えています。
自分の出身地だから褒めるわけではありませんが、名勝の虹の松原や唐津焼で知られる唐津は、景色が美しく、おいしいものがたくさんある街です。
『魏志倭人伝』の時代から港町としての歴史と伝統があり、店構えやサービス、雰囲気も洗練されています。唐津を中心とする県の北部は、これから福岡の奥座敷としての存在感が十分出てくるだろうと思います。
一方、北海道、本州、四国という遠来のお客さまに対しては、県単独ではなく、九州全体を一つのエリアとして誘客を図っていくべきではないかと考えています。ハウステンボスに行こうとか、伊万里や有田で磁器を見ようという人はいても、「佐賀県に行こう」と旅行計画を立てる観光客がどれほどいるでしょうか。
私は長崎県庁に勤務していたとき、観光を担当していたことがありますが、昼間はハウステンボスで遊んで、佐賀県の嬉野温泉に泊まるというようなコースを回る人が少なくありませんでした。お客さまは限られた費用と時間の中で、より満足度の高い旅行をしたいのであって、何県であるのかは関係ありません。ハウステンボスに遊びに来る人をついでに伊万里や吉野ヶ里遺跡に引っ張ってくる"コバンザメ戦略"だって、お客さまが来てくれるのならいいではないですか。今、九州の財界が中心になって、九州の一体的な観光戦略・戦術に取り組んでいこうという話が持ち上がっていますが、私は大賛成です。各県バラバラの観光戦略と統一感のなさも九州観光の低迷の原因の一つになってきたと思うからです。
今後、佐賀県を発信していく方法も、県単独のパンフレットの配布やキャンペーンを展開するよりも、焼き物を読者のグレードの高い雑誌に載せてもらうといった売り出すテーマを絞ったプロモーション活動に注力したいですね。

棚田

 
「県内の厳選したいいものに"佐賀県"を使ってもらうように、品質感を大事にしたい」と語る古川康知事







組織の論理ではなく、お客さまの目線で
佐賀県は東京と大阪に観光情報センターを出していますが、電話の問い合わせで一番多いのが有田と伊万里です。佐賀県としては、東京、大阪へそれぞれ一日2便ずつ飛んでいる有明佐賀空港の利用をイチオシで勧めます。ところが、空港から有田や伊万里へ行くには、まずバスで佐賀駅へ行き、電車で30〜40分揺られてやっと有田へ着くという具合です。伊万里はさらにアクセスが悪く、電車をMRに乗り換えなければなりません。
佐賀県を代表する観光地なのに、公共交通機関のアクセスがこんなに悪くては話になりません。
ウィーン(オーストリア)には10ユーロ(1500円弱)で借りられるレンタカーがあります。市内から出てはいけないなど、いろいろ制限はありますが、旅先でちょっと「足」がほしい観光客には非常に便利です。有田、伊万里へのお客さまは中年女性3〜4人が多いんですが、お一人ぐらい運転免許を持っているでしょう。一方県内では大都市の人口密集地の網の目のような公共交通機関はとても望めません。そこで、佐賀県でもウィーンと同様に「1000円レンタカー」ができないかと検討をお願いしていたところ、今年になって話がまとまり、この秋から有明佐賀空港で最低料金1000円のレンタカーがスタートします。佐賀県は交通渋滞がないから運転しやすいですし、地平線まではるかに広がる麦畑など、佐賀県の誇る農村のすばらしい景観も楽しんでもらえます。
どこでも組織が大きくなったり、管理部門が強くなったりすると、お客さまのことより内部の論理が優先してしまいがちです。県庁も例外ではありません。県の観光行政の論理で考えるのではなく、お客さまにとって何がいいのかを考え、足りない面は充足していかなければなりません。それがお客さまの満足度の向上につながり、佐賀県のブランド力を高めていくことになると思います。
先日オープンした「佐賀城本丸歴史館」は壮大なスケールで歴史を体感していただける、全国最大級の木造復元物です。当面は12月29日〜31日を除き、年内無休で、午後8時まで開館しています。県外で暮らす佐賀県出身者が正月に帰省したときにも足を運んでもらえるように元旦も休みません。担当部署がどうしても他の公共施設並みに週に一度は休みたいというので、パンフレットには仕方なく「当分の間」と書いてありますが、設置者側の理屈ではなく、来館者のニーズを優先して運営すべきなのは言うまでもありません。
県立の施設ですが、施設の案内は100人のボランティアが行っています。来館者のアンケートを見ると、施設の内容だけではなく、ボランティアの熱心さと知識の深さが非常に高く評価されています。将来は運営の一部を任せられるようにきちんと組織化するなどして、よりお客さまの目線に沿った観光事業ができるように、こうした方々に力を発揮してもらえる体制づくりも進めていきたいと思っています。

磨けば光る素材がふんだんに
地元の人には目新しいことではなくても、外から訪れた人にとって魅力的に映る素材はたくさんあります。
たとえば、佐賀市内の蓮池というエリアでは朝食に茶粥を食べる伝統があります。市内のニューオータニ佐賀に、朝食のメニューに茶粥を加えてくれないかとお願いしました。県内には歓楽街がありませんから宿泊する人にとって、朝ごはんも「佐賀県」を楽しむ重要な要素の一つです。
佐賀県は北海道に次ぐ大豆生産県だけあって、豆腐が非常においしいのも自慢できる点です。唐津には「ざる豆腐」で全国的に有名な、寛政年間創業の老舗「川島豆腐店」があります。有田には豆乳にくずを入れて固めた、プリンのような食感が人気の「ごどうふ」、唐津の神集島(かしわじま)には独特の製法で非常に固くした「石割豆腐」、嬉野には温泉水で温めた「温泉豆腐」と、ざっと豆腐だけでも、こんなにあります。これらも優れた「佐賀県」ブランドとして、もっとアピールできる形にしていかなくてはなりません。
町並みの整備も課題です。有田焼の工房が並ぶ赤絵町のたたずまいはすばらしいのですが、長い通りの途中に観光客が休憩できるような場所がありません。伝統的にメーカーより商社の力が強い土地柄だったため、観光客に直接、訪れてもらうことを重視していなかったのです。最近ようやく個人客に見たり、買ってもらったりすることも、ブランド力を高める大きなきっかけになることが、わかってもらえるようになりました。
発掘できる素材は、ほかにもまだまだあります。年間約3000万人の来県客のうち、現在は約9割を日帰り客が占めていますが、「泊まってこそ佐賀県のよさ」も積極的にPRしていかなくてはなりません。
佐賀県人は控えめでも実行力には優れています。これからもっと多くの「佐賀県」ブランドの魅力を全国のみなさんにお届けします。


佐賀県は北海道に次ぐ大豆の生産県で、
豆腐が非常に美味しいのも自慢  






お堀から県庁を望む