月刊ガバナンス2月号(OPINION 自治体から見た三位一体改革)掲載
発行日:平成18年2月1日
発行所:(株)ぎょうせい
「三位一体改革で分権は進んだのか」
佐賀県知事 古川 康

〜佐賀県が目指した三位一体改革の目的〜

「県民の満足度が高まるような行政サービスの実現」―これは、2003年10月16日に佐賀県が公表した「プロポジション10・16」で明らかにした三位一体の改革の究極の目的である。
今回、三位一体の改革の“第一期改革”が決着したが、佐賀県が目指した目的に照らしてどうか、まずは佐賀県独自の分析を紹介したい。

「県民満足度が高まるような行政サービス」が実現するためには、次の2つのいずれかが満たされなければならない。
一つは、行政サービスの具体的な内容や提供方法に関する「地方の自由度」が拡大したとき、このとき地方はその自由度を活かしたサービスを提供できることから、県民満足度は高まる。
もう一つは地方の自由度は高まらなくとも、国に対する補助金の申請や会計検査といったいわば内向きの業務コストや時間が縮減したとき、つまり「官が効率化」したときである。このときは不要になった業務コストを縮減できるほか、住民と向きあう時間とコストの割合を高めることもできることから、やや間接的ではあるが県民満足度は高まる。

〜3兆円を4グループに類型〜

この「地方の自由度」と「官の効率化」を軸に、佐賀県独自の視点で3兆円改革を整理してみると、表1のようになる。

(表1)
地方の
自由度
官の
効率化
対象 金額
Aグループ 小規模企業等活性化補助金
在宅福祉事業費等補助金等
1,000億円程度
Bグループ 介護保険事務費交付金
公営住宅家賃対策補助等
2,540億円程度
Cグループ × 公立保育所運営費
社会福祉整備費関係
3,120億円程度
Dグループ × × 義務教育費国庫負担金
国民健康保険
児童手当・児童扶養手当等
2兆4,500億円程度

Aグループは、奨励的補助金が中心である。地方の自由度も拡大し、同時に官の効率化も図られる。まさに地方分権の趣旨に沿ったものである。
Bグループは、事務費に対する補助金が中心である。事務費に対する補助金であるため、そもそも地方の自由度が発揮される余地は乏しいので地方の自由度は△としたが、官の効率化は図られるので、これも一定の評価はできる。
次のCグループは、財源が一般財源化されても国の省令等による関与、基準等が現時点では残るため、地方の自由度が高まらないものである。公立保育所運営費を一般財源化しても児童福祉施設最低基準などが変わらないために、保育行政に地方の自由度が発揮されないのはその好例である。また施設整備費も一般財源化されたが、施設設備基準が変わらなければ、これまでと同じようなスペックの施設を整備せざるを得ないことになる。とはいえ補助金申請事務等はなくなるので、官の効率化は図られる。
最後のDグループは、負担率カットなどにより地方の自由度は高まらず、かつ申請事務も引き続き残る(中には国民健康保険のように新たに生じたものもある)ことから官の効率化も進まないものである。

〜県民満足度が高まるのは約6,000億円〜

これを見てお分かりのように、県民満足度が高まる行政サービスに結びつく改革は、AグループとBグループの合計でわずか3,500億円、Cグループまで含めたとしても6,000億円強に過ぎない。
税源移譲に結びつく改革は、県民満足度の向上に結びつく改革ではなかった、というのが結論である。

そうとはいえ、それを嘆いてばかりいては仕方がない。今回のこの結果をみつつ、今後の地方分権の戦略という点から1点提唱したいことがある。
ある意味、当たり前の話ではあるが、Aグループの1,000億円分について、地方自治体が本当に地方の自由度を発揮して、本気で県民の期待にこたえるということである。
このAグループには在宅福祉事業費補助金を中心に市町村へ移譲されたものも多い。市町村は、現在、市町村合併による旧市町村間のサービス調整に労力をとられており、今すぐに市町村に創意工夫を求めることは難しいかもしれない。
しかし都道府県にはそうした事情はない。中小企業支援を中心とする産業振興関係をはじめとして都道府県に移譲された事務について、地方の自由度を活かして、積極的に関係者の期待にこたえていくと同時に、「地方に任せて大丈夫か」という不安感を一掃したい。

〜各自治体の切磋琢磨で分権の進展を〜

そして、その結果を一覧表にして全国知事会のホームページなどで公開してはどうか。それぞれの都道府県で温度差もあろう。ある事務については積極的に見直した県も、別の事務では全く見直しをしないものあるだろうし、いまの国の基準が地域にあわないから見直したものもあれば、これまでの国の基準がその地域にとっては最適な基準であり、見直しを不要とするものもあろう。
しかし、一斉に取り組んで公表することの意味は大きい。何よりも、お互いが切磋琢磨する。公表することで地方自治体は住民の視線や説明責任をより意識する。その結果、サービスは“既製品”から“オーダーメイド”“地域スタイル”となる。住民自治を原動力として、サービスを向上させる、これこそが地方自治の醍醐味である。考えてみれば、都道府県には他の46団体、市町村には1800団体の“同業他社”がいる。この同業他社との切磋琢磨は、国にはできない。
 
「地方にできることは地方に」。小泉首相のこのフレーズから三位一体改革ははじまった。しかし、さらに地方分権を進めるために必要なのは、総理の鶴の一声ではない、今度は我々の努力次第だ。再びボールは投げ返された。