朝日新聞 平成17年10月5日掲載
私の視点 いま自治体で ◆分権改革 住民の満足度を高めたい
                                 佐賀県知事 古川 康

衆院選で国民は小泉改革の継続を支持した。小泉改革は「官から民へ」「国から地方へ」を車の両輪にして、ここまで走ってきた。

「民へ」の代表は道路公団と郵政だ。「地方へ」は当然、地方分権である。

選挙戦では「なぜ郵政民営化なのか」が日々、大いに論じられた。しかし、残念ながら「なぜ地方分権なのか」は、ほとんど語られなかった。自治体行政に責任を持つ立場から、改めて国民の皆さんに、分権を進めるべき理由を説明させていただきたい。
 
まず、一つのエピソードから。佐賀県内で福祉施設を経営するAさんは、今春の開業をめざして、施設を建て直そうと考えた。工事には国の補助金が欠かせないので、昨春には計画書を国に出して準備を進めた。

ところが、昨夏になって急に国から「補助金枠の都合で、今年半分、残りは来年に」という通知があった。Aさんは仕方なく完成予定を今春から7月に延ばすことにして、着手した。ところが、秋になると国から今度は「やっぱり全部、今年の単年度事業で」と言ってきた。そう言われても、工事も資金繰りも7月オープンのペースで進めており、前倒しなどできなかった。

この事例のように、国の都合で、地域で必要とされる福祉施設が、必要なときにつくれない。Aさんと施設利用者は多大な迷惑を被ったが、自治体にできたことは、国が決めた補助金の交付時期を申請者に伝えることだけだった。これが悲しい現実である。

もうひとつ、こんな話もある。中小企業や地元の商店の希望に応じて、経理や広告などの専門家を派遣する制度がある。経営指導や業務改善のお手伝いをするのが狙いだ。それなのに、コミュニティービジネスといった地域密着型の活動で、まちづくりに一役買っているNPO法人は、こうした制度を利用すできない。

制度のサービスを受けられるのが、株式会社などの「商業者」に限られているからだ。営利法人には行政が支援するのに、非営利法人には支援しないなんて、とっても不思議な話だと思われないだろうか。

一事が万事である。今なお自治体の仕事は、補助金や規制によって、霞が関が決めたルール通りのものが実に多い。佐賀県の場合、歳出の約50%が霞が関ルールに従ったものだ。

なぜ霞が関ルールの行政がいけないのか。

それは、せっかく住民から具体的な要望が届いたときでも、自治体が「国の基準でできません」と答えざるを得ないからだ。

まるで、税金を納めている住民の皆さんの声より、税金を補助金という形で地方に配る霞が関の声を大事にしているかのようにーー。

こんなことを続けていては、いつまでたっても自治体行政に対する住民の理解も満足も得られない。だから実際に納税者である住民を向いた仕事ができるように変えなければいけない。

 その具体例として、国の補助金を廃止して、自治体へ税源移譲することや、さまざなな基準や規制を国ではなく、自治体の条例や規則で定めるようにすることが必要なのだ。

実際に、今年度から高校生への奨学金に関する補助金が廃止され、その金額が地方へ税源移譲された。佐賀県ではさっそく、従来は国の決定を待って9月からだった奨学金の支払いを、5月からに改めた。本当に必要なときに、奨学金を渡せるようにしたわけだ。

このように、地方分権が進めば、自治体は住民ニーズにきちんと応えられて、住民の満足度が高い行政サービスもできる。仮に応えられなくても、その理由を国のせいにするのでなく、自ら説明責任を果たす。

これが、地方分権が求められる理由である。