古川 康の自治省時代から知事になる前までの執筆をご紹介します。
地域づくり11月号 1993年11月(7)
杠 玄照のからくち自治時評
自分の住む地域に本屋ぐらいあってもいいじゃないかというのは、世界一の出版国に暮らす者としてみれば、あながちムリな望みともいえないのではないかと思うのだけれど

本屋のあるとこ、ないところ

今月は、間違いなく先月の続きである。

要するに本の話である。

まず、この表を見ていただきたい。

都道府県別書店も図書館もない町村数
都道府県 町村の数 書店も図書館もない町村 都道府県 町村の数 書店も図書館もない町村
北海道 180 56 滋賀 43 13
青森 59 26 京都 33 16
岩手 47 15 大阪 12 6
宮城 61 18 兵庫 70 34
秋田 60 23 奈良 38 20
山形 31 10 和歌山 43 17
福島 80 39 鳥取 35 19
茨城 68 20 島根 51 22
栃木 37 5 岡山 68 32
群馬 59 28 広島 73 45
埼玉 52 15 山口 42 9
千葉 51 22 徳島 46 20
東京 14 5 香川 38 18
神奈川 18 3 愛媛 58 40
新潟 92 40 高知 44 24
富山 26 0 福岡 75 23
石川 33 2 佐賀 42 18
福井 28 6 長崎 71 38
山梨 57 34 熊本 83 50
長野 104 63 大分 47 30
岐阜 85 42 宮崎 35 15
静岡 53 9 鹿児島 82 24
愛知 58 18 沖縄 43 30
三重 56 27 小計 2,581 1,095
参考 全国書店名簿91年版 JPIC調べ
日本書店商業組合加盟店
日本図書館協会資料90年12月
全国市町村要覧平成3年度版


これは、財団法人出版文化振興財団がまとめたものであるが、全国に書店も図書館もない町村がどれだけあるか調べた結果である。もちろん、だからといって、これらの地域に住む人たちが全く本を読んでいないわけではなく、隣町や地域の中心都市で書店や図書館を利用していたり、通信販売を利用していたり、また、本を持って、回ってくる外商の人から買ったりと、さまざまな方法で本と接している。

しかし、身近なところで出版文化に触れるチャンスがないということはいえるかもしれない。

わが国は、年間三億冊、出版点数約四万点、売上高ニ兆円という書籍(雑誌を含まず)市場世界一の出版国である。

ここではあえて、「出版大国」とは言わない。これだけの出版部数を誇りながら、一方で自分の住むまちに出版文化を享受できる場所がないという町村が四割以上あるという現実を見ると、とてもではないが、「大国」とは言えないだろう。

僕は、ある地域が、劇団四季が見られないとか、プロ野球もJリーグも公式戦が来ないとか、クラシック音楽の愛好者が少ないとかいうことはどうでもいいことだと思う。そもそも、そうしたものをライブで楽しめるものは一部の地域の人間に限られているからであり、その意味でここに挙げたものは、国民的文化といえるものではないと思うからだ。

しかし、テレビや新聞というのは、身近に、しかも、多くの人が楽しんでいるという意味で国民文化といえると思う。そして、マンガでも雑誌でもなんでもいいのだけれど、活字または活字と一緒になった絵を楽しむことも、これまた、多くの人が享受している国民文化であると思ってきていたのだが、約二千万人近くの人びとの住んでいる地域にその活字文化の集積地がないという現実を見ると、「まいったな」というのが正直なところなのである。

財団法人出版文化産業振興財団というところがあって

ところが、世の中には思いを同じにする人がいたらしく、書店も図書館もない地域に書店をつくろうという運動をやっている団体があった。それが、この表の調査元でもある(財)出版文化産業振興財団(JPIC)である。この団体は、通産大臣所管で、出版業、取次、書店等が中心になって、生涯学習の一環として、さまざまな角度から読書を普及させるべく、書店の人材育成事業であるとか、読書アドバイザーという本の相談員みたいな人材の養成事業等を行っている。

そして、このJPICが行っている事業の一つに、書店も図書館もない地域に書店を開設する地域読書環境整備事業がある。

JPICによれば、この事業の目的・意義は、「本を購入する書店、借りて読むときの図書館がないという町村について、本を常時展示し、なおかつ販売するモデル施設を設置して、全国に一千町村程度あるとみられる地域を対象にしてモデル事業を実施し、地域格差の解消を図ろうとするもの」であり、具体的なステップは以下の通りである。

自分たちの町村には書店も図書館もなく、かつ、なんとか書店が欲しいというところがあれば、まず、その旨、財団に申し出る。財団では、その地域が条件を満たしているかどうかを調査したうえ、実施できるということになれば、実施にあたっての条件を確認のうえ、JPICの理事会でこの事業決定がなされることになる。

事業を実施するための条件とは、町村内に書店、図書館がないことのほか、場所を確保(たとえば、中央公民館の一角とか)すること、施設運営の専任担当者をおくこと、および開設前にJPICの研修を受けることであるが、さほど過重な条件ではないであろう。

こうして、地域読書環境整備事業として決定されれば、開設に際してのノウハウを提供してもらうことができるほか、JPICが、書店開設の当初の在庫新刊本約一万冊を提供してくれる。正確にいえばこれは無償貸与なのだけれど、これを売って、それで得た収入でまた、新しい本を仕入れればいいわけで、そういう意味では、提供といってもいいだろう。

この事業を活用して、大分県耶馬渓町および岩手県三陸町では町営書店がすでにスタートし、最近、北海道礼文町でもオープンした。

耶馬溪町、三陸町ではいま

読書環境整備事業の第一号の大分県耶馬溪町の町営「わかば」書店は、昨年五月三日にオープンした。中央公民館一階の店舗面積七坪、初期在庫六千五百冊という文字どおり、若葉のような小さな芽であった。

人口六千人の町で、約十一ヶ月間に約一万四千冊、八百三十万円の売り上げがあったという。そのうち児童書の割合が十一%。大人は車があるけれど、地域の中で毎日過ごしている子供たちにとって、わかば書店の存在は大きいものがあることがこのことからもうかがわれる。

昨年、十月二十五日にオープンした三陸町の「ブックワールド椿」には、「ここでは本を買うことも、借りることもできます」とか「立ち読み大歓迎」という案内がある。

ここの販売管理員の方は、JPICに対する事業報告書の中で、こう書いておられる。「『ブックワールド椿』では、『本』だけではなく、『人』にも出会えます。お近くにお越しの際にはぜひご来館ください。新しい仕掛けを用意してお待ちいたしております」

この事業、毎年九月末に実施団体を募集しているという。来年度、お考えになってはいかがであろうか。

杠 玄照とは古川 康のペンネーム
杠 は、佐賀の特徴的な苗字なので、佐賀の人間だということをさりげなく表現しています。玄照 は「玄界灘を照らす男」という意味で気概に満ちたネーミングです。