古川 康の自治省時代から知事になる前までの執筆をご紹介します。
「地域文化」 Vol.23  1993年1月  村山 建大(古川 康のペンネーム)
「Hamidas」の仲間のことなど

『現代文化の基礎知識 Hamidas』が出て三年経った。
6刷33,000部をほぼ売りつくし、残りはわずか。
1990年には「長野県内でこの1年間に最も売れた本」にランクされ、冗談で始めたこの企画がここまでになるとは、と驚いたものだった。
さらにびっくりしたのは、この本の類似品が出回ったことだ。同じ出版社から去年出版された『Hamidas 1992』は残念ながら僕らとコンセプトを同じくするものではなかったけれど、お隣の新潟県ではその名もズバリ『現代新潟の基礎知識 Yomidas to Tomaran』というのが出た。キャッチコピーには「新聞・TVからこぼれ落ちた新潟のホントネタ。アナタの知性をドレスアップするおいしい話題。エーッ、ウソーッ、ホント!? まちがいなく超おもしろい吉本興業的雑学百科』とある。完璧なまでのHamidasスタイルの踏襲、もっとカンタンにいえばパクリである。
書いたのが新潟日報の記者(OBか現役か知らないが)だけに文章自体はうまいが、いかんせん、やっぱり自分で住んだことのない県のことはピンとこないせいか、「あるある」というネタがあまりない。
ただし豚肉の話はおもしろかった。
新潟は全国で一人当たりの豚肉の消費量が全国一なのだという。県民はすきやき、しゃぶしゃぶ、焼肉定食はもちろんのこと、あらゆる料理に豚を使うらしく、そのことに県民もすっかり慣れているが、新潟市内のある定食屋では「ビーフシチュー」にまで豚肉を使っているというのである。
ビーフシチュー、概念を超越したこの豚肉の使い方は確かにインパクトを感じる。

青森では県庁職員で作ったAMIDASというグループが『サービス・アメニティと地域の魅力』という本を出した。これはなかなかの売れ行きだという。この本にはわりと生活実感に合う部分がある。
「『フライデー』は青森ではなぜ月曜日発売なのか」や「なぜ青森にはCX(フジテレビ)系列のテレビ局がないのか」「なぜ青森では巨人戦が行われないのか」というオモシロイ話題をていねいに調べてある。徹底的に遊んでいるところが笑えるのだ。

このほか岡山では『Kibidas』が出たし、香川では『現代香川の基礎知識』が出ると、こうして見ても『Hamidas』が地方出界における一つの旋風であったということができるだろう。
僕自身も『Hamidas』のおかげであちこちの講演会に呼ばれたりすることも多く、おかげでいろんな人に出会い、いろんな勉強をさせてもらった。
週一回のラジオレギュラー番組もやっている間は大変だったが、基本的には週一回、新しいネタ探しをしなければならず、そういう眼で世の中の森羅万象を見るわけでずいぶんいろんなことを調べることができた。
「セブンイレブンの看板が「ELEVEn」とnだけ小文字になっているのはなぜだろうか」とか「十年前まで犬に税金をかけていたムラはどこか」とか「長野県の高校生は日本で何番目に勉強をしないか」などなど今残っているラジオ用草稿を見てもなつかしく、かつ嬉しくなる。

こうした経験を経て僕が得た一つの結論は「おもしろいことは身の回りに必ずある」ということだ。
大切なのは、それを拾い上げるセンスと、きちんと調べる行動力の二つ。
いいかえれば「ココロ」と「カラダ」のフットワーク。これさえできれば『Hamidas』はどこででも作れる。
最近諏訪のほうでも、その類のものができているけれど、つまり『Hamidas』とは地域の見つめ方という一つの方法論であったのだ。

『Hamidas』は冒頭にも書いたようにもうほとんど残部がない。そして出版して以来三年という月日があの本の内容をいまの信州とは合わないものにさせてしまっている部分もある。だから『Hamidas』は絶版となる。
そして 村山 建大 という存在そのものもとりあえずおしまいになる。
皆さんには本当に御礼を言いたい。ありがとう、そして長野県風に言えば、「おやすみなさい」。